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―――
彼女がそれを見てから、さらに数日が経過するまで時は進む。

「あ、ルインさん。いらっしゃい」
「うん、でも今日は…」
「あ~今日はシータの用でしょ? 上で待ってるから行ってあげてね」
「ええ、じゃあ上がるわね」
ルインは定期的にこのエルフィの店に来ることにしていて、常連の一人に今はなっている。
彼女は、その頃ヘルパーとしての注目株として見られていた。
僅か数ヵ月でCランクの高い位置まで登り積めたのはかの『ドラゴンパピー』などに知られるように数は少なく、珍しい存在だからだ。
彼女の服装は今にでも戦闘に出れ、見た目も考慮したジャケットアーマー。
それがなかなか似合ってる…とはシータの談。
ただ、気紛れに来るのがいつもだが今日は違った。

シータから緊急の連絡を受け、直ぐに出向いた。


そしてシータの(貸し)部屋へと入る。
彼女は今は工房で機械技師がよく来ているそれを着ていた。

「ルインちゃん。思ったより早かったね」
「まあ、ね。それで?」
「うん、ね」
それから直ぐに真剣な顔付きに変わり、
「何も言わずにこれを見て」
有無を言わせぬそれを聞き、彼女のパソコンに表示されていたファイルを見た。

ファイル名は短かった。

[遺書.txt]

短かいからこそ重い響きをより強く受けるそのファイルを開く。
そこに書かれていたことは次のようなことだった。

書き出しは、

これを見ている時、私は既にこの世にはいないだろう。

――――――
これを見ている時、私は既にこの世にはいないだろう。
そして、シャマルとの約束も果たせたのでは無いかとも思う。
先に書くが、この文は明日に変わる前にひっそりと書いたものをデータベースに最小限の手間とか掛けて入れたものだから字足らずな所があるかもしれないが気にせず読んで欲しい。
シャマルからこの薬を使うと聞いた時、逃れることも出来ず、もうどうしようもなく、ただ三つのことを頼んだだけだった。
一つは貴方達の身の安全の確保。
二つはこれ以降、模擬戦を無くす。
三つはこの薬を使うのを私で最後にして欲しいということだ。
私に使われる薬は多分すぐ分かるだろうが、使われた理由も分かっていた。
私の能力が低かったからだ。
いや、上がらなかった、からか。
――――――

そこまで読んで、ルインは一度読むのを止めて考える。
確かに、あの頃の彼女は伸び悩んでいた…というより、伸び止まったというべきか。
…あれでもなかなか高い能力を持っていたと記憶していた。
しかし、それを幹部達は認め無かったということか。
…だがしかし、それだけが理由では無いと思い、続きを読み進める。

――――――
ただ、理由はそれだけでは私も無いと思う。
簡潔に言って私が邪魔だったのだろう。
私がいるから指示が直接届かない、と思われていた。
それはこっそり聞いた話だったが、そう思われていたとは驚きだ。
ただ、私は人としての指令は受けた。だが、機械的な指令はあまり出さなかったのは私が殆んどを塞き止めていたからだ。
機械的なのは機械に任せればいいとも思っていた。
…結局、人としての感覚を邪魔に思われた。
それは間違い無い事実だろう。
後のリーダーが誰になるかは分からないが、私達とアインから選ぶなら変わらないとも思う。
――――――

この文から先に書いてあったのは彼女の本音、ルインも、既に見たシータもそう思った。

――――――
私達は兵器なんかでは無い、人なのだから。

それと、明日はルインとやりあい、私が負けて終わると思う。
そうであって欲しい。
それで、ルイン。
私を殺したことは根に持たないで欲しい。
あなたはそういうところで真面目すぎる。
そうしないと、私の大切な友を守れなかったから。
使うと決まったその時から決心していた、だから根に持たないこと。
私からの最後の願い。
他にも仲良くしてとか色々あるけど、一番はこれ。
――――――

彼女はあの日からだ。
シローネと同じ橙色の髪にしたのは。
それには、いつまでも彼女の心で生きていることを証明することだった。
根に、十二分に深く根付いていた。
そして今までは、だ。

――――――
私達は、いつの日にか、自由になれるのかな。
自由になれると信じて、私は心に抱きながらずっと願い続けているから。
――――――

「…」
「ルイン…ちゃん…?」
「ずっと…心の闇は晴れなかった…でも、姉さんは闇を持たないで欲しい…か」
その顔には迷いも闇も晴れ、ただ何かを悟った顔だった。

「シータ」
「な…何?」
その言葉には威圧的なものも高圧的なものも無かったが、ただ、聞かずにはいられなかった。

「髪の脱色剤、出来る限り強力なのを」
「ん…ちょっと待ってて、それと…本当に?」
「ええ、本当よ」
「ん…分かった」

一時間後、
「これ…」
「ありがと」
シータからその薬を貰い、用は済んだと言う感じで挨拶をかわし、店から出ていく。

「えと…ルイン、ちゃん…本当に…大丈夫?」
「大丈夫、もう迷わない、ただ、自分の信じる所へ進むだけよ」
「そっか…うん…多分大丈夫だよね?」
「ええ、それじゃあまたね」

彼女の後姿に蟠りは、もう無かった。

(うん、大丈夫。やっていける…)
そう、心の中で反芻し、またどこかへと旅立って行った。




『白銀の戦姫』
そう呼ばれるようになったのはその頃からでもあった。