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雪の降るアルティア聖誕祭―――クリスマスの夜、祭りの騒ぎに乗じて、謎の赤い服を着た老人が、複数の子供にささやかな贈り物を渡しているという噂があった。

その噂を耳にした教会は、裕福な貴族がクリスマスの由来ともなった人物、セント・クルスの真似事をしているだけだと主張したが、その証拠となる確証は残念ながらいまだ出ていない。

そして、その神出鬼没で目撃談が殆ど出ていない謎の老人だが、「赤い服を着たおじいちゃんからプレゼントをもらった」という子供の目撃談は少なからずあったりする。

 

なんにしても、確証のないどこにでもある不思議な伝説のひとつであった。

 

***

 

クリスマスです。お祭りです。

でも、私達の懐事情は相も変わらず非常に寂しいことになっています。

 

「うう・・お腹すいた・・・」

「がおー・・・」

 

周りがクリスマス一色だというのに、そんな楽しい雰囲気から一脱してぐったりとしている少女が二人。

大きい方は茶髪に白い外套、それから手には機械のような杖を持っているティラ。

小さい方は長い金髪に右目と左目の色がそれぞれ違うオッドアイ、それから袖が余りに余った大きな黒いコートを着ているリイン。

 

どちらも空腹のまま、ふらふらとおぼつかない足取りでお祭り騒ぎの街中を歩いていた。

 

「うう・・ライト一体どこにいったんだろう・・・?」

そう、今の彼女達には、ひとつ大事なものが欠けていた。

隣を歩いていたはずのライトが、気が付いた時にはこつぜんと姿を消していたのだ。

 

財布を握っているライトがいなくなったおかげで、今の彼女達は正真正銘の無一文。こうしてご飯も食べられず、彼を探して街を歩き回る羽目になっているのだった。

しかも、街中はどこもかしこもクリスマスのイベントで盛り上がっており、四方八方からおいしそうなにおいが漂ってくること漂ってくること。

お陰様で、現在空腹少女ティラとリインは、襲いくる御馳走のにおいと闘いながら歩かなくてはならないという、世にも恐ろしい生き地獄を味わっているのだった。

 

「うう・・マキちゃんはいいよね。なにも食べなくてもお腹が空かなくて・・・」

『マスター、気をしっかり持ってください』

「えへへ・・・今日の晩御飯はなんだろうなー・・、去年はなんと小さなイチゴショートケーキー・・・」

『・・・マスター?』

「うん大丈夫大丈夫。私まけないから・・」

自分の持つ機械杖ティタノマキアの気遣わしげな声に答えるティラだが、その目が少々食べ物のにおいにやられて危険な光を帯びつつあることに、本人は気付いていない。

それどころか、横ではリインの瞳が、危険な光を帯びるのを通り越してどこか虚ろになりつつあることにも気付かないほど、二人は追い詰められつつあった。

 

たかが食べ物と思うなかれ、彼女達は周囲が認める食の人なのだ。(本人は否定しているが説得力はない)

 

そして遂に、二人は精根尽き果てたかのように壁際に座り込んでしまった。

 

「あ、あはは・・も・・だめ・・・お腹が・・・」

「が・・がおー・・・」

空腹の余り崩れ落ちてしまった二人はぐったりと俯く。ここで誰かが彼女達を見たらどうにかなったかもしれないが、街の人達は祭りに夢中で、生憎と少女達に気付くものは誰もいなかった。

―――そう、一人を除いて。

 

「メリー・クリスマス」

そんな声が聞こえ、ティラが前に目を向けると、

何時からそこにいたのか、ティラ達の側に一人の老人が立っている。

そして不思議なことに、ティラ達はその事態を自然のように受け入れた。

何の予兆も脈絡もなく現れた老人に彼女達は驚くこともなく、ただ事実としてそれを認識するだけだった。

もしかしたら本当の奇跡とは、そういったさり気ないものなのかも知れない。

小太りな体躯と赤と白の鮮やかなコントラストのコートを纏ったその老人は、顔全体を覆うかのようにたっぷりと蓄えられた白い髭の間から歌うように言った。

「こんばんは」

「あ・・こ、こんばんは」

「がおー」

「汝らにささやかな奇跡を」

 

老人はティラとリインに歩み寄ると、背負っていた大きな白い袋の中から二つの箱を取り出して二人の少女に手渡した。

渡し終えた老人は、一言もしゃべらないまま、再び袋を背負って踵を返し、その場を去ろうとする。

そこではっと正気に返ったティラは、手に持っている箱を見て、それから去ってゆこうとする老人を見て、とっさに声を掛けた。

「あ、あの!ありがとうございました・・!!」

少女の言葉に老人は一度歩みを止める。そして背中を向けたまま顔だけ僅かに横に向け、左腕を横に突き出して握り拳からビシッと親指を立てると、

「グッドラック」

そう言ってニカッと白い歯を見せて笑い、気が付くと―――、

「・・・え?」

もう老人の姿はなかった。

ティラとリインは首を傾けて周囲を見渡すが、目に入るのはお互いの姿と騒がしい街の景色だけだ。

「あ、あれれ??」

「がお?」

まるで一瞬の夢から覚めたようにお互いに顔を見合わせるティラとリイン。だがその手元には確かに二つの箱が残っていた。

 

 

「おっ!いたいた。おーいティラ、リイン!」

それからしばらくして、見知った黒いコートを着たライトが急ぎ足でティラ達の元に歩み寄ってきた。

その表情は、どこかご機嫌そうだ。

「あ、ライト、どこ言ってたの!?もーお腹が減って死にそうで・・・!」

「がおー!!」

「あー悪い悪い。ちょっとな。・・・ん?どうしたその箱は?」

「え?えっと、なんだか親切なおじいちゃんに貰ったんです」

「ふーん?物好きなじいさんだな?―――それはそうと、これを見ろ!!」

ライトがバーン!!と効果音が付きそうなほど自慢げに手に掲げて見せた物を見た途端、二人の視線が釘付けになる。

―――『リエステール、クリスマス恒例<大食い大会>』

 

―――その時、傍で誰かが見ていたら、少女たちの双方の瞳がギラリと光ったのが見えただろう。

 

「いやーさっきほっつき歩いてたら偶然チラシを貰ってな。今夜の7時からあるらしいんだ。もちろん、参加自由。人数制限なしだ」

「がおー・・・!」

「ら、ライト・・・!!」

少女達の顔が燦々と輝く。その顔を見て少女達の言いたいことを理解したライトは大仰にうなずくと。

「そう、つまり―――」

今度は、ライトの双方の眼がギラリと光った。

 

「―――好きなだけ、食い荒らしてこい・・・!!!」

 

 

―――数時間後、ふらりと現れた二人の少女が、大食い大会において周囲の観客や参加者を震撼させ、ちょっとした伝説を作り出したのは、また別のお話。

 

・・・よいクリスマスを。