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客船でのシップイーター騒動、あれは大陸外周部に張り巡らされている大型の魔物避けの仕掛けが一部破損していた為に起こった出来事らしく、あの船が南部にたどり着いた後の二、三日は、修復と補強のため定期船が休みになったのは、当然のことかもしれない。
魔物避けの点検は定期的に行われている筈なのだが、たまの報告ミスが引き起こす事態は大きい。

――が、まあひとまず目的地に着いてしまえばそんなことはあまり関係なく、元々数日は滞在する予定だったので、問題は無いだろう。
……貴族家の一人娘としては、家の事業に影響がでないか心配なところではあるのだが。



「私、船と相性悪いのかな……」
フローナについた後、アリスがそんな事をぶつぶつと口にしているのが耳に入った。
船に乗るたびに何かあるのでは困ったものだが、とりあえずただの偶然だとフォローを入れておく。
……しかし、これほど無力感を感じさせられたのは、支援士を始めたばかりのころ以来だった。
Bランクともなれば、上位クラスの相手も考えなければいけない時期。いい教訓として考えておくくらいには受け止めた方がいいかもしれない。
「支援士ギルド、『Little Legend』。本拠の所在はリエステール、と」
とりあえず、今は目先の目的地について確認する。
大体の位置こそ噂に聞いてはいるが、実際に行ったことはない。
……加えて、ここは地元ではないこともあって、自分の事をティールだと間違える連中は、間違いなく多いと考えた方がいいだろう。
「……髪型少しいじっておこうかな」
自分の方が容姿を変えるというのも、なんだか負けた気がするのは確かだが……誤解からややこしい事になるのは勘弁したいので、この場は妥協することにした。
とりあえず、そのへんの雑貨屋に立ち寄り、ヘアピンやら髪ゴムやらを物色する。
「ベティさん、こういうの好きなの?」
―――とくれば、まあ当然のように絡んでくるのがアリス。
最初は元気なお嬢様といっただけのイメージだったが、こうして一緒に行動していると色々と浮き彫りになってくるもので……
わりと無遠慮にモノを言い、少し自己中心的な性格の持ち主だと分かってきた。
子供らしいと言えばそれまでだけれども、十二歳というそろそろいい歳になるのにこの調子なのは、きっと彼女の本質がそうだから、なのだろう。
「まあ、嫌いじゃないけれど……」
「ふぅん。じゃあ、私が選んでもいい?」
良く言えば人懐こい、悪く言えば図々しい。
しかし決して悪い気分にはならないので、どちらかと言えば前者の方が言い表すのに適切だろう。
「お姉さまはこういうの欲しがらないから、選んであげたりすること無かったなぁ」
と言いながら、こちらの答えなど待つ事無く話を進めるアリス。
ごく短期間共に行動していたという“お姉さま”の事を考えながらの行動なのはよくわかるが、とりあえず彼女基準な思考になりつつあるのが多少見て取れるようだった。
「……別にいいけど、アリスって“お姉さま”になつきすぎじゃない?」
ふと、そんな姿を見ながら隣に立っていたアルにたずねてみる。
何だかんだと言っても、共にいたのはごく短期間、そのていどでここまで入れ込めるものなのだろうか。
「……少なからず、アリス様とティールさんには共通する思い出があります。恐らくその共感から始まり、多少年上で頼りにできる人、という認識が加わって、それが慕う気持ちに変わったのではないかと……」
「共通する思い出?」
「……両親や、近しい人達と死に別れた事です」
「―――!」
これもまた、初耳な情報だった。
ティールという支援士の情報は、名声のわりにあまり出回ってはいない。
家族構成や出身地など、詳しいことはほぼ闇の中と言っても過言ではないのだ。
――異世界の住人などという噂も、それが元なんじゃないかと思うほどである。
「……というか、そんなことアンタの口から言っていいの?」
仮にも主のパーソナルな部分に触れる話だ。
あまり軽々しく他人に教えてもいいものではないはず。
「貴女が信用できる人間と見ての判断です。この話から、アリス様やティールさんをどうこうするようなことも無いでしょう」
「それはまあ、そうだけど」
ある意味大したものだな、とベティは思った。
内情を知ると知らないとでは相手に対しての対応も自然と変わってくるもので、知らずに相手にストレスをかけるような言動をしてしまうこともある。
逆に知っていれば対応も考える余地はあるわけで……
「……アンタ、考えようじゃ悪どいよ」
「これでも悪魔の端くれなので」
「…………ま、今更驚かないけどさ」
そう口にして、ふう、とため息をひとつ。
まあ納得のいくところもいくつかあったので、無駄な会話では無かった事は確かだ。
……近親者を失い、そこに最初に手を差し伸べた――自分の気持ちを深く理解してくれる相手がティールだった、そういうことなのだろう。
「ベティさん、はいっ」
「わっと……」
不意をつくように、ベティの目の前に現れてその髪をかきあげるアリス。
そしてそのまま、かきあげた髪のところに一本のヘアピンを挿し、にこっ、と楽しそうな微笑みを浮かべた。
「それと、これも!」
「チェス――のボンボン?」
正直、ボンボンのようなかわいげのある髪留めがくるとは考えていなかった。
白黒の小さなクィーンとキングの駒が内側に埋め込まれた透明な球体が二つの、なんとも技術力的に高価そうなモノだが……
「……まぁ、ありがたく受け取っておくよ」
やはり、こういう素直で純粋な気持ちをさらけ出してくる相手には弱い。
とりあえず今まで髪をまとめていたヘアゴムを外し、ポニーテールの形にして結わえなおす。
……このくらい形を変えていた方が、誤解されるようなことも無いだろう。
そう思っての行動だったが、先ほども感じていた悔しさのようなものは、まだ少しだけ残っていたが―――

「ティール……にアリス!?」

―――何も、その矢先に間違われるようなことはなくても……
などと、少し悲しくなったりもするベティだった。


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