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―4―



鉱山の町モレク。
元は鉱山の採掘を生業とする山男達で賑わう町だったが、鉱山が魔物の巣窟につながってしまい、ダンジョン化してからは、支援士の姿も多くなっていた。
……それから、随分と長い時が過ぎた今もそれはかわらずに、町の酒場は支援士と、鍛冶専門のクリエイターを中心に、多くの人で賑わっていた。
「はっはっは、そりゃー災難だったな」
「他人事だと思ってわらうでない!」
そんな中で、酒場のマスターと話しこむ二人。
ディンは、エミリアがいち早く鉱山へと向かいたい様子だったのを考慮して、平原で出会った少女とも別れ、最終準備を手早く済ませて出発するつもりだったが、エミリアの口から出たのは『情報収集じゃ』の一言。
その言葉に拍子抜けしつつも感心し、とりあえずは少女と一緒に、もっとも情報が集まっているだろう酒場に来たわけだが……
「いやいや、すまんすまん」
モレクにくることそのものが久しぶりということもあって、以前鉱山関係の依頼をこなしていた時からの知り合いである、モレクの酒場のマスターと話しこむ結果になってしまっていた。
ちなみに、少女はテーブルについてパンとスープとハンバーグという組み合わせで食事をとっている。
「けどな、そんな大層な宝石ぶら下げてあるいてるってーのは、連中にとっちゃ格好の的なんだろう」
「だろうな。 まぁ、俺はもう慣れたが」
「そうじゃ、私達があんな低俗な輩に負けるわけないじゃろ」
「違ぇねぇ。 お前さん達、中級ダンジョンにいっても生還できるんじゃないのか?」
「ああ、最近は沙上墓所の探索を中心に行動している。 ミナルへは道具の補充と、エミィが蒐集物を研究したいって言って、そのつもりで戻っていたんだが…」
「なるほど、そこでお嬢ちゃんが例の話を聞きつけてきたってところか」
「うむ。 特殊な力を持つ鉱石と聞いて、この私が黙っておれるわけがなかろう」
ここまでの会話で『新種の鉱石』を探しているという発現は一切口にしていなかった。
それでも、マスターは二人の目的を早い段階で看破している。
それは、エミリアの性格をよく知っているというのもあるかもしれないが、それだけ『鉱石』目的で来た冒険者が多いという事だろう。
「ま、話を聞きつけたクリエイターの連中が、『鉱石探し』の依頼を大量に置いていきやがったからな。 お嬢ちゃんもそろそろ来る頃だとは思ってたんだよ」
「考える事は皆同じってコトか。 ……で、持ち帰ったヤツはいたのか?」
「いや。 噂が流れ始めて1か月、ただの一つも見つかっちゃいねぇ」
「…むぅ、それでは、デマの可能性もあるわけじゃな……」
「だな。 ……まぁ行くのは止めねぇが、あんまし期待せん方がいいと俺は思う」
……しばしの沈黙。
ディンにとっては、無いなら無いで宝石の原石でも見つかれば、今後の旅の足しになると考えていたために、あまりショックというものはなかったのだが……エミリアは、かなり複雑な心境にさいなまれていた。
誰にも見つかっていないと言う事は、何一つ手付かずでのこっているということ。
しかし逆に考えれば、噂そのものが嘘でしかなかったという可能性も出てくると言う事になる。
「……では、最初に見つかったという時の話はどうなっておった? どこで見つかったと?」
それでも、とにかく情報を集めようと声を出す。
マスターは少し思案するように右手をあごに持っていき、数秒ほど間を開けてから、口を開いた。
「そうだな、『巣窟』の中だ。 まぁ、見つかったのは浅い部分って話だから、お嬢ちゃんたちなら踏み込める範囲だろう」
「巣窟……」
鉱山を掘り進む際に、偶然つながってしまったという天然洞窟。
大量の魔物が住むため、その鉱山の奥の洞窟部分を、『巣窟』と呼ぶ者もいる。
今でこそ鉱山の方へと魔物の一部が出てきているが、奥の方の危険性は未だに明確にはされていない。
「……おっと、それともう一つ忠告だ」
「…む、なんじゃ?」
「例の鉱石を探しに行ったヤツから、馬鹿でかい魔物を見たって話があってな。 そっちのほうは5、6人は口を揃えて言ってたから、まず間違いは無いだろう」
「…馬鹿でかいと言っても、あんな狭い通路のダンジョンじゃ、大きさなんぞしれているじゃろう」
「……鉱山の通路いっぱいってコトか?」
「ま、そんくらいはあると見ていいだろうな」
「特徴は聞いてないのか?」
「ああ…白っぽい岩か何かが集まったような魔物って話だ。 恐らくゴーレムかなにかだろう」
「そうか……わかった、覚えておこう」
ディンはそう言うと共に、足元にころがしていた荷物と大剣を拾い上げる。
「…もう行くの?」
すると、スープの最後の一滴まで飲み干し、肉とパンもたいらげた少女が、カウンターに代金を置きながら声を掛けてきた。
「ああ。 準備もあるし……コイツはいち早く探しに行きたいみたいなんでな」
エミリアは、ディンが剣に手を掛けた時点で、そのまま鉱山まで飛び出して行きそうな体制に切り替わっていた。
いつのまに担いだのか、荷物の入ったバッグもしっかりと背負っている。
「ではマスター、忠告、感謝するのじゃ。 お主もまた会おうぞ」
「ま、何日かはここの宿にはりついてるだろうけどな」
「おいおい、酒場に来たのに酒の一杯も飲んでいかんのか?」
「ミナルの酒を飲みなれてると、どうも他のは合わないからな」
「かーっ、この貧乏酒場にゃ用は無いってかこいつは」
「女でも雇って、看板娘にしたらどうだ? 男臭いモレクの町だ、それだけで人気いでっ!?」
セリフの途中で、側頭部に強烈な打撃が入る。
見ると、エミリアがなにやら不機嫌そうな顔で杖を振り回している
「何を馬鹿な事言っておるか!」
「…っつ~……変な意味じゃない。 ミナルの酒場だと、看板娘目当てで行ってる男連中がいたって思い出しただけいでっいででっ!?」
「ディンもその一人か、この痴れ者!!」
頭をバシバシと叩かれながら、逃げるように走っていくディンと、追いかけつつも杖を振り回し続けるエミリア。
二人が去って行った直後、一瞬酒場の中にどうしていいのか分からない、といった空気が充満していたが、間もなくその雰囲気は解け、マスターは大きく笑い始めた。
「ふぅん……」
しかし少女だけは、何か別なモノを見ているかのような瞳で、二人が去って行った扉の向こうを見つめていた。
「………危ない…かな?」
「何?」
「いえ、別に……」
そんな様子に気がついたらしいマスターの言葉を受け流し、そのままひょい、と椅子から降りて、少女は自分の荷物と槍を持ちあげる。
そして、改めてマスターの方へと顔を向けて、こう一言。
「ちょっと、あの二人を手伝いに行こうと思って」
「ほう。 お嬢ちゃんにしては珍しいな。 いつも一人で行動してるだろ?」
「……別に仲間を否定してるわけじゃない。 気が向けば、パーティーだって組むよ」
服を少し整えた後、肩から下げたバッグの位置を直し、二人が出て行った酒場の出口へ。
まだまだ小柄な少女とはいえ、その姿は妙に様になっていた。
「ゴーレム系の魔物っていうのも気になるしね」

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