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「んむ?そのでかいタンコブはどうしたのじゃアキ」

再び起きて酒場までやって来たつららが、カウンターの椅子に座りながらそんなことを聞いてきた。

「なんでもないよつらら。ちょっと肉体言語で訴えられただけだから」

「うーむ、よくわからぬがあまり無茶はするではないぞ?」

「ありがとう」

ああ、キミの優しさのおかげで朝っぱらから荒れてたぼくの心が癒されるよ・・・。

「別に自分の愚かさを再確認しただけだから無茶もなにもないよな?アキちゃん?」

オヤジさんがニヤニヤしながらカウンター越しに笑いかけてきた。

その憎たらしい笑みが癒されかけていたぼくの心を再び荒ませる。

「うんそーだね。あははは」

オヤジさん。キサマはいつか必ず殺ス。

 

「ところでつらら。昨日は夜も遅かったし宿に泊まったけど、家に帰らなくてもいいの?」

酒場で軽い朝食を終えた後、横で満足そうに顔を弛緩させているつららに聞いてみた。

つららはお金を持っていなかったので宿代と酒場の食事代はおれが立て替えたけど、できれば近い内に返してほしい。

「んむ?別に家などないのじゃ」

え?家が無い?

「いやでも、早く帰らないと親が心配するよ?」

「父上は別に心配はせぬと思うから問題ないのじゃ」

「どんな親だよ」

いや、でも子供に名前すらつけなかったロクでもない親だし。寧ろ子供がいなくなったら喜ぶかもしれない。

よくこんな可愛い子が捻くれずに育ったものだ。

そんなことを考えていると、つららが少し不安げな瞳でぼ・・おれの顔を覗き込んできた。

「もしやアキは・・ワシがいると迷惑じゃったかのう・・・?」

「ええっ!?いやそんなことないよ!」

ただ少し生活が厳しいだけさ。それに今月はまだ母さんとミシアに仕送りもしてないし。

「そうだぞ。それにこいつの意見なんて聞く必要もないからな。自分がしたいようにすればいいぞ」

「ちょっとオヤジさん!?」

なんてことを言うんだこのひげ面。やっぱりオヤジさんとはいつか決着をつけなきゃいけないみたいだね・・・!

「うむ。ではそうするとしようかの」

「ええ!?つららもぼくの意見を無視することにしたの!?」

「ああそうしろ。それにたぶんこいつは一緒にいれば無視はできないだろうからな。金銭面でも問題はないだろう」

「ちょっとまってよ!キサマはぼくを破滅させる気か!?」

 

ボカッ!

 

ひどい!なにもしてないのに無言で殴られた!

「それは少し悪いような気もするのじゃが・・・では、好意に甘えることにしようかの」

「別に面倒見るとは一言も言ってないんですけど!?」

どうしよう。ぼくのまわりでぼくを無視する傾向が出始めたよ!?

何度も抗議の声を上げるけど、二人ともまるでまったく気が付いていないように横で話を進めていて、遂におれに面倒を見てもらうということで勝手に話がまとまってしまった。

ぼくの意見は完全に無視だ。

「そうしておけ。・・・ん?どうしたアキ」

ふう。やっとぼくに気が付いたか。でももう遅いんだよ!

「うわぁぁん!みんな嫌いだーーー!」

「あ、アキ!どこにいくのじゃ!?」

 

つららの声を背中に受けながら酒場から飛び出した。目から涙が止まらないのは外が寒いから止まらないだけで、決して無視されたのが悲しいんじゃないぞ!

 

 

「あ!そこのお嬢さんちょっといいか!?」

「うん?」

酒場を飛び出してから行く当てもなく歩いていると、少し遠くから声を掛けられた。

「お嬢さん」という言葉になにか引っかかりを覚えたけど、とりあえず足を止めて声のする方向を振り返る。

そこに、ちょっとガタイの良い男が駆け寄ってきた。

「実は君に頼みたいことがあるんだ。一緒に来てくれないかい?」

「え?まあいいですけど・・・」

とくに何も考えないで答えてしまった。

ま、よからぬことを考えてたら白雲で追い払えばいいしね。

 

そうして男に案内されてやってきたのは遥かなる北の雪原への定期船がある港の倉庫。

入るように促されて入ると、ごちゃごちゃといろんな物が詰め込まれている倉庫の中で複数の男達が待っていた。

「で?頼みってなんですか?」

「ああ、それはね―――」

突然、後ろで倉庫のシャッターが音を立てて下ろされた。それと同時に案内してきた男が二ヤリと気味の悪い笑みを浮かべる。

「ちょっと、俺達の相手をしてくれたら嬉しいなぁと思ってよ」

「模擬試合ですか?見たところ武器は持っていないみたいですが」

まあ中にはオヤジさんみたいに拳一つで魔物の群れに突っ込む馬鹿・・・じゃなくて化け物みたいな人もいるけど、どうもこの人達はそう言う感じの人ではないように思う。

「いやいや、そうじゃなくてな」

「?じゃあ武器なしですか?生憎ぼ・・おれは素手での試合は得意じゃないんですけど」

いやまあ普通に喧嘩する程度なら大丈夫なんだけどね。悪友とよく殴り合うし。

「そうじゃない。要するに、俺達に奉仕をするんだよ」

・・・ああ、なんだソッチか。それにしても回りくどい言い方をするなあ。

「そうですか。わかりました。他を当たってください。それじゃ」

「おっと逃がさねえよ」

ちぃ!さり気なくやり過ごすつもりだったのに!

瞬く間に男達に囲まれてしまった。他の人ならここでへたれこんでしまうかもしれないけど、生憎おれは諦めが悪いのが長所だからまだ平気だ。

なぜなら男に言い寄られることなんて日常茶判事だから!まったく嬉しくないけどね!

 

それに自慢じゃないけど、日常的に言い寄ってくる男を追い払ってきたから人並みには強いと自負してる。

そう思って白雲の柄を握ろうと後ろに手を回したら、なぜか手が空をつかんだ。

「・・・おや?」

小首を傾げてもう一度背中をまさぐる。やっぱり白雲を触る感触は伝わってこなかった。

・・・もしかして、忘れてきた?

「なにをしているんだい?お嬢ちゃん」

ぎくっとして前を見ると、下卑た笑みを浮かべてこっちに歩み寄ってきてた。

ははは、なんか目が怖いですよ?

「余計な抵抗はしないことだ。そうすれば俺達も手荒なことはしないさ」

じゃあおれの視界の端の床に転がってる手錠っぽい物とか首輪っぽい物とかなんか背中の尖った木馬みたいな物はなんだと小一時間くらい問い詰めたい。

 

くっ!白雲がないならしょうがない。今日はこっちの方法でいくか!

「言っておくけど、おれは女じゃないぞ?」

やっぱり効果はてきめんだった。

ぼ・・おれがそう言ったら、男達は予想通り動きを止めて驚いたような表情を浮かべ、それから嬉しそうに―――嬉しそう?

 

「そうか。そうだったのか。それなら好都合だ」

 

え?ちょっと待って。好都合ってどういうこと?なんでそんなに嬉しそうな顔でこっちににじり寄って来るの?

 

「だって俺達は―――女よりも男の方がイケるクチだからなぁぁぁぁっ!!」

「うそぉぉぉぉぉっ!!??」

これは計算外だ!まさかソッチの人達だったなんて!ぼくの貞操大ピンチ!?

「ごめん。訂正。実は女でした」

だが流石はおれ。関発入れずに素早く自分の言葉を訂正する。女と名乗るのは嫌だけど、この際だし仕方がない!

「まあどっちでもいいさ。そんなこと、一度ひん剥けばわかることだからなあ!!」

ぎゃぁぁぁぁぁ!!??訂正の効果まったくなし!?

「さあてどっちかな!?どっちでも可愛がってやるぜぇ!!」

「結構です!!」

 

ダッ!!(ぼく猛ダッシュ)

 

「あっ!こら!」

男が何か言っている気がするが知ったことか!こっちは自分の貞操が掛かってるんだよ!!

「お前ら逃がすなよ!!こんな上玉、そうそうお目にかかれねえぞ!!」

『『『応っ!!』』』

リーダーらしき男の声に応えて、他の男共が追いかけてくる!

「応じゃないよふざけんな!ぼ・・おれにそんな趣味はない!!」

「安心しろ!!しっかり愉しませてやる!!」

「できません!!」

こんなに本気なのは久しぶりだと思うくらい必死に逃げ続ける。だけど体格の差で、お互いの距離がどんどん縮まっていく。

「くそーっ!!体格の差で力が変わるなんて世の中不公平だー!」

「大丈夫だ!!その体型がイイって奴は世の中にたくさんいる!!」

「なんの話だ!」

「無論、小柄なぺったんこの話だ!!」

「説明すんな!」

もう嫌だ。家に帰りたい。

そして気が付いたら、倉庫の端まで追い詰められていた。

「って早い!追い詰められるの早すぎるよ!?ねえ普通はこうさ、もっと地形を利用して追ってくる敵を撃退しながらさぁ!ねえぼくの話を聞いてる!?」

「うん?大丈夫だ安心しな。お前の声なら後でたっぷりと聞いてやるからよ。へっへっへ、お前がどんな声で鳴くのか楽しみだぜぇ・・・!」

そう言って男は舌ずりをして、手をわきわきといやらしく動かしながら迫ってきた。

 

だめだこいつら早くなんとかしなきゃ・・・!

でもそんなことを思っても、今のぼくには何もできることがない。

端に追い詰められて青ざめたぼくに、男の嫌らしく動く手が迫ってくる。きゃあ、やめて来ないで。

するとぼくの思いが届いたのかはわからないけど、突然頭の上のカエルの口がぱかっと開かれて―――

 

ゴッ!(カエルの口から大きな氷塊が吐きだされる音)

 

ゴキッ!(男の顔面に氷塊が直撃する音)

 

ボキッ!!(ぼくの首の音)

 

「ごああああああ!!??」

「首がぁぁ・・首がぁぁぁぁぁ!!」

「ケロケロー」

首を押さえてのた打ち回るぼく。

カエルが氷塊を吐いた反動をダイレクトに首が受け止めて、嫌な音と共に首に激痛が走った。

このカエル!よりによってなんてことしてくれるんだ!!

 

「おい!大丈夫か!?」

「気を付けろ!あのカエル、氷の塊を吐くぞ!!」

「くそっ、ただのカエルだと思って甘く見てた!」

他の男達が慌てて顔面に氷塊を受けて悶える男に駆け寄ってきて、視界からぼくが外された。

あれ?ひょっとして逃げられる?

「・・・今の内に・・・」

痛む首を押さえながら、こっそりと気付かれないように閉じられたシャッターまで移動する。よし、もう一息で逃げられる!

 

「・・・おい」

あ。見つかった。

 

「ここまでやっておいて、お預けをくらわそうなんて考えてるわけじゃないよなあ?」

お預けをくらわすもなにも、おれの貞操をあげるつもりは毛頭ないんだけど。

「そんな困ったちゃんには、きついオシオキが必要だなあ?」

オシオキってなに!?ぼくにソッチの趣味はないってば!!

 

「覚悟しろやああああああ!!」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!??」

もうダメだ。こんな奴らにぼくの貞操をあげることになるなんて最悪だ。今日は厄日だ。

その時だった。

 

閉ざされていたシャッターの一部が、轟音と共に倉庫の内側に向かって吹き飛んだ。

「おぬしら、そこまでじゃ」