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「はあ、メイド長……ってまた大袈裟な」

ギルドに帰ると、マナを真ん中にしてアルとワルツの三人がそこに立ち、今後の自分達の扱いについてティールに申し出ていた。
マナは一応何でもない風を装ってはいるようだが、なにやら居心地が悪いような恥ずかしいような、微妙な表情を浮かべているが……
「このギルドについては、マナさんが一番詳しいので適任かと思いますが」
「いやその……三人しかいないのに長とかつけられましても……」
あははは……と乾ききった笑いをもらすマナ。
自分達が出てる間に何を話してるのかと思えば、まさか自分のギルドで使用人の序列のような話を耳にすることになるとは思わなかった。
とでも言いたげに苦笑するティール。
それでも口にしないのはどういった意思の表れだろうか。
とりあえず、ティールは好きにしていい、と一言投げ掛け、マナの立場はほぼ確定したと言ってもいい結果となった。
「……ってアリス、あの二人がここの使用人って事は……」
「うん、私もお姉さまのギルドに入って、ここで暮らすの」
「…………」
意外、と聞かれればそうでもない答えのはずなのだが、また色々と疑問が尽きない話だ。
両親はおらず、一人いたという姉も殺された彼女。そこから普通に考えると、貴族生まれとなると今の……ワンダー家の当主はアリスだ。
まあ幼さゆえにアリスの立場は代行という形で、アルとワルツが周辺のことを担当していた、とここに来るまでの道中で聞かされてはいたのだが。
―というか、よく考えたらワンダーなんて家あったかな……―
少なくとも、自分の記憶の中にそんな貴族家の名はない。
―――が、そこでふと一つ思い出した。
と言っても、定期船の中で自分で行った、ただの推測なのだが。
……彼女は、黒艦に乗ってきた中の一人ではないか、ということだ。
そういえばそんな噂を受けている人間は何人かいる。
黒艦騒動の後に突然現れた数名の支援士達がそうなのだが、この大陸では未解明な機械部品を扱っている者もいるなど、信憑性を裏付ける話もあったはずだ。
「……身辺整理の為に、私達は故郷に帰っていただけなので」
「――!」
見透かされた? それとも声に出ていたのだろうか?
……いや、とにかく今のアルの一言で、ある程度の確信はできた。
細かい事は横において、ワンダー家は事実上潰れたか、自ら潰したと見て間違いはないだろう。
「向こうの通貨はこちらでは使えませんし、多くは金品に変えて持ってきています」
「……いや、それは別に聞いてないけど……」
というか、あの軽装のどこにそんなものを持ち歩いていると言うのか。また、通じない通貨を持っているということは、やはりこの大陸以外の人間なのか。
その一点については気になるところではあるが……
しかし、ということはつまり、アリスは元いた場所を捨ててでも、このティールという少女の元で暮らしたいと考えたということ。
単なる気まぐれの類いのように見えなくもないが、相当の決意が必要になるはずの事だ。
「後悔は、ないのかな……」
色々と、残してきたものもあるはずだ。
深い事情は分からないが、少なくとも……何かが。
「後悔のともわない決断なんてないよ」
「……ティール?」
心裏を見透す才。
ティールの特技の中でも特に有名なものの一つで、彼女をやや避けたい相手と思わせる要因でもある。
どこかで聞いた話では、親しい間柄なら表層意識だけでなく深い部分まで読み取れてしまうのではないかとささやかれている。
「決断は迷いから生まれる事象。選ぶことのできる選択肢の中に、自分にとってプラスになるものが二つあれば……それが迷いになり、決断の後に、もう一方のプラスが惜しくなる事は珍しくない」
導師、という言葉が彼女には合うような気がした。
明確な答えは口にしないが、聞く者の先を示すような言葉を口にする人間。
それは彼女自身の過去を他人に再現させたくないためのものなのだろうか。
「誰にとっても過去は常に一つ。 過ぎた選択肢は選びなおすことはできない……けど、それがあるから今の自分がある。”初心”というのは、そう言う意味で重要なものだよ」
「……」
確かに、人にとってすべての行動の元となるのが初心――最初に抱いた目的、目標と言い換えてもいいだろう。
たとえその後目的や目指すものが変わっていっても、最初に追おうとした夢があったからこそ、今見ている未来(ゆめ)を見る理由につながった、ということもあるかもしれない。
「…………アリスが、私の傍にいたいと言ってくれたのは嬉しいけど、どういう想いがあったのかは想像もつかないね」
――自分の初心は、なんだっただろうか?
幼いころから槍を手にしていた理由は? 騎士の家系だからだろうか?
いや、そんな義務感だけで武器をとるような分別は、幼いころの自分には無かったはずだ。
というより、そんな時期だと家の事などまず理解などしていなかっただろう。
「ベティ?」
……ティールの呼びかけにも気づかず、思考の海の中に沈むベティ。
自らの”力”を支える元となるもの、それは一体何なのか。
ティールのように、死に直面しながらも生を貫くような強さが自分にあるとは思えない。
アリスのように、自分の居場所をすべて捨ててでも、会いたいと思えるような誰かはまだいない。
アルとワルツのように、命に代えても守りたい人、と言える相手も心当たりはない。

それを見つければ、自分の中で何か変わるのだろうか?
振るう力に、意味を見いだせるだろうか。


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