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―6―





「……で、俺達に何か用でもあるのか?」
エミリアが去り、ディンとティールの二人だけになった宿の一室で、本を読みかけていたティールに向けて、ディンはそうきりだした。
「なんのことかな」
ぱたん、と開きかけた本を閉じ、問いかけた相手に視線を合わせるわけでもなく、ただそう声に出すティール。
しかしその表情は、問いかけられるのを待っていたかのようにも見えた。
「3人で相部屋に……俺には、『話したい事があるから同じ部屋にできないか』と言ってる様にきこえたんだが」
帰ってきていたのはとぼけた一言だったが、ディンは会話を続けるのをやめようとはしない。
いつもなら一笑に伏すような出来事だったが、なぜか、ティールの『一言』は見逃すつもりにはなれなかった。
「それは深読みしすぎじゃないかな」
「それならそれで構わない。 だが、何かあるような気がしてならないんでな」
彼女の後ろには、なにか強い意思のようなものが感じられる。
のんきそうな笑顔で押し隠してはいるが、その言葉の端々にはなにか特別なニュアンスを感じざるを得なかった。
「…そうね……貴方は、エミィの事をどう思っているのか聞きたくて…ってところかな」
「どうって……どういうことだよ」
ディンの脳裏には、その問いの意味についてのある一つの解釈が浮かんでいた。
それは、意図としてはもっとも単純で、それでいて答えるにはもっとも複雑な問い。
「そういう意味じゃなくて、戦いの中での、エミィと貴方の役割のこと」
「あ、ああ。 そっちか…」
「何を想像したのやらね」
その一言を口にした瞬間の微笑みは、今までの可愛げのあるものではなく、いたずらっぽさに満ちたものだった。
してやられた、と思うディンだったが、慌てれば余計に深みにはまると察し、軽く息を吸い、精神を落ち着ける。
「パラディンナイトとマージナル。考えるまでも無いだろう?」
「具体的には?」
「……前であいつを護る『盾』が俺で、あいつは後ろから攻撃する『大砲』だ」
「『盾』と『大砲』―いや、『鎧』と『移動砲台』って感じかな」
……やはり、意図が読めない。
問いかけに答え、それに対する反応を観察しながらも、彼女の言葉の裏の意味を解き出そうと考え続けていたが、その真意は理解できなかった。
「でも私には……時々、爆弾でも積んだ『盾』が『鎧』を護ってる様にも見えたけどね」
単なる興味からの問いと言ってしまえば、それまでかもしれないが、何かと意味ありげな言動を繰り返す彼女には、『単なる興味』という言葉からは程遠い。
「どういう意味だ。 ……いや、その前に『見えた』って、今朝の話か?」
「ううん。 今日一日通しての話」
「…俺達の後、つけていたのか」
「うーん……今日は私も鉱山に潜っていたからね。 時々貴方達が魔物と戦ってるのが見えただけだよ」
―……どこまで本当なのやら―
確かに狭い上に障害物も多く、視界が薄暗い洞窟の中ではあったが、後をつけられていれば、物音や気配である程度は察知できるし、付いてくるほうも魔物との戦闘は避けられない。
ならばついてはいかずに、目当ての相手と合流しそうなルートを狙って歩けば、時々くらいは見かける事はあるだろうか。
……そんな思考からディンは、月影騎士(クレセント)の才能もあるな……と、比較的この場ではどうでもいい事を考えさせられていた。
「ま、そんな些細な事は横に置いといて」
そんなディンの様子など気にも止めていないかのように、箱を両手で横に移動させるようなジェスチャーを交えて、そんな事を口にするティール。
ディンにとっては、ストーカーまがいの行為についてはあまり流したくは無かったが、あまり追求しても主に自分の頭の中の収拾がつかなくなりそうなので、この場は何も言わずに従うことを選択した。
「エミィ、腕に一撃くらっていたよね。  ……あれは、大丈夫だったの?」
「ああ、聖に祈る者(セントロザリオ)聖女の癒し手(アリスキュア)には敵わないが、俺は『ラリラ』くらいの治癒魔法は使えるからな」
「そっか。 ……治癒で間に合う傷なら、まだいいよ」
「…………」
……なぜか、突如二人の間に差し込む沈黙。
直前までからは考えられないほど、言葉と言葉の”間”が長い。
もう、会話が途切れてしまったかのように思えたが、ティールは確かに何かを言おうとしているように見えるのには変わり無い。
しかし、その言葉が口から外に出て来ない、といった感じだった。
「……命だけは……」
……それでも待っていると、ティールの口から、今までの会話には無かった何かを秘めた一つの声が、歯切れ悪く、しかししっかりとした音をもって、発せられた。
「……命の借りだけは、絶対に作っちゃダメだよ?」
「…命の借り?」
雰囲気に押され、その単語を思わず復唱するディン。
ティールは、黙ったままこくりと頷いた。
「…………」
発せられた言葉の意味は、会話の流れと、自分の身の回りの人間を考えれば分かる。
命の借りとは、まさにそのままの意味で、命に関わる事態から救い出されるという事だ。
だが、『盾』であるディンにとってはむしろ貸す側に回る事の方が多く、今朝のようなエミリアの『きわどい軌道』の魔法で、逆に味方にやられそうになったことも少なくは無い。
「……俺が『盾』として役不足ってか?」
「まぁ、役不足と言えば役不足じゃな」
突如割り込んできた声と共に、キィ…という音を立てて、ゆっくりと部屋の扉が開いていく。
「!」
その向こう側に見えるのは、紛れも無くエミリアの姿。
手に持っている服が寝間着一式で、着ている服が出ていった時に着ていたものなので、入浴自体はまだということはよくわかる。
「いくら治癒ができるといっても、ディンのそれは気休め程度。 自分でもわかっているようじゃが、セントロザリオやアリスキュアには遠く及ばぬよ」
そのまま言葉を続けながらずかずかと部屋に入り、自分のカバンを再度漁り始める。
そして何かを見つけたような動作の後、それをとりだして手早く手元の寝間着一式の中に挟み込んだ。
「……もう少し、頼りがいのある男になるのじゃ。 そうすれば、私が傷つく事も無くなる」
ここにきて始めてディンの顔を正視し、吐き捨てるようにそう口にした後、さっさと部屋の外へと出て行ってしまった。
……反論する暇すらも与えられず、呆然と閉じてしまったドアの向こう側をみつめるディン。
ティールはその様子を見てふっと怪しく笑みを浮かべ、エミリアと同様に、カバンの中から寝間着らしき服を取り出していた。
「多分下着でも忘れたんだろうけど……ディンには間が悪かったみたいだね」
「……こっちの気も知らずに……」
「それはお互い様だと思うけど……エミィの方が、私の言ったことを理解してるよ。 きっと」
そして最後にそういい残すと、エミリアを追いかけるように、小走りでティールも部屋から駆け出して行った。

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