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つららの先導に連いて行きながら、自然と鼓動が速くなるのを感じた。

まあそれも無理は無いと思う。

だって、今から竜と話すのだ。

既に覚悟は出来てるとは言え、よくもこんなトチ狂ったことを言ったものだと早速後悔し始めてたりするけど、今更逃げ出す気は毛頭ない。

やるからには最後までやらないとね。

「止めぬとは言ったが、本当に行くのじゃな?」

先導していたつららがふと立ち止まって、少しだけ振り返って訪ねてきた。その口調は相変わらず少しだけ冷たかったけど、なんだかんだ言ってもやっぱり心配してくれているのかもしれない。

「うん。心配してくれてありがとう」

「いや、そういうわけではないのじゃが。―――ところで、その腕は大丈夫なのかの?」

「ふぇ?」

唐突につららが話題を変えてきたので不覚にも少し間の抜けた声を出してしまってから、指摘された腕に目を向けた。腕って、さっき怪我をした腕のことかな?それなら多分大丈夫っていうか、今はそんなこと言ってる場合じゃ―――

 

「・・・ひぃい!?凍った肩から先がドス黒い色に!?」

思わず上げてしまった悲鳴と一緒に、シリアスな気分なんかどっかに吹っ飛んだ。え?待って、何これ!?

「い、いや待って落ち着こう。まずは冷静になるんだ」

そう自分に言い聞かせる。そうだ、冷静に対処すれば大したことはないはず。まずは試しに指を動か―――ヤバい動かない!?

いや、そんな馬鹿な。他の指は―――ダメだ!別の指も動かない!ていうか肩から先の感覚が全くないよ!?

 

「つ、つらら!お願いこの氷を解いて!このままだとぼくの腕が腐った果実みたいになっちゃう!」

一途の希望を掛けてつららに懇願する。

実際に腕の色は腐った果実みたいにドス黒く変色しまっている。け、けどまだ間に合うはず!

「んむ?じゃが解いてしまうとまた血が出てしまうと思うのじゃが」

よかった。解凍とかは可能みたいだ。でもこの腕を見たらそんなこと普通言わないよね。

「そんなのいい!ぼくがなんとかするから、だから腕が使い物にならなくなる前に早く解凍を!」

「やれやれ、仕方がないのぅ」

ちょっと不満そうなつららが指をパチンと鳴らすと、ぼくの肩を凍らせていた氷が空気に解けるように消えていった。

それと同時に止められていた血が一気に腕を駆け巡る気持ち悪い感覚があったものの、腕の色が元に戻り始めるのを見るとホッとした。よかった。ギリギリ間に合ったみたいだ。

 

でも肩の傷口からはまた血が溢れ始めたから、これはたすき掛けしていた紐を使って肩を縛って止血しておいた。

まさかこんな場面で役に立つなんて、何が役立つかわからないものだね。

 

「これでよし・・・っと」

「ほう、そんな血の止め方もあるのじゃな」

「うん。つららにはぜひ覚えておいてほしいね。それじゃあ行こう」

「うむ」

 

気を取り直して、再びつららの先導に従って歩き出す。

それにしても、少し遠くから見ていても大きかったけど、間近で見ると、本当に大きい。

この竜を前にすると、自分が随分とちっぽけな存在に思えてしまうから不思議だ。

「まずはワシが一人で話してくる。おぬしはここで待っておれ」

「了解、気を付けてね」

「おかしなことを言うのぅ。ワシは父上の娘じゃぞ?」

「あ、それもそっか」

 

「ここで待っておれ」ともう一度だけ言うと、つららはぼくを置いて一人で竜の足元まで歩いて行った。

 

「父上、父上と話がしたいという者がおるのじゃが、通してもよろしいかのう?」

つららが竜に話し始める。

でも、つららがあの竜と親子っていうのが今だに現実味がない。

いや、信じる信じないで言えば、つらら本人の口から聞いたことだし信じるけど、実際につららが竜としゃべってるところを見ると、いまいちかみ合わないというか―――

「―――あ」

しばらくその様子を見守っていると、ここで一つ、重大な問題があることに気付いてしまった。

 

―――あれ?そういえば竜と話すのってどうしたらいいのかな?

 

「うむ、ではよいのじゃな」

 

一通り話を終えたらしいつららが、ぼくの所まで戻ってくる。

「アキ、父上が一応話を聞いてくれるそうじゃ」

どうやら竜の方は人間の言葉が分かるみたいだ。それはそれで一安心だったけど、でもぼくは竜の言葉なんて分からない!

「ま、待ってつらら!ちょっと致命的な問題が発生したんだけど・・・」

「なにをごちゃごちゃと言っておる。ほら早く来るのじゃ」

「わあ待って押さないで!竜とどうやって話すの!?ねえ!」

 

ぐいぐいと背中を押されながら竜の足元まで進んでいく。どうしよう、言語の問題が解決してない。

つららのお父さんと言っても相手が相手だし、機嫌を損ねないように慎重に会話しないと危ないのに。主にぼくの命が。

 

そんな風に慌てている内に、気が付けば竜の足元まで辿り着いてしまった。

「父上、この者が父上と話がしたいと言っておる者じゃ」

竜のアメジストみたいな紫色の双眼に見下ろされて頭の中が真っ白になる。

 

いや、大丈夫。こういう不測の事態の際は日頃の経験がものを言うはず。冷静に対応すればどうってことないはずだ。よし、とりあえずここは・・・

 

「えっと・・・こ、こんにちは!」

思わず頭を抱えたくなった。

 

馬鹿!ぼくの馬鹿!何でこんな時に呑気に挨拶してるんだよ!それは確かに挨拶は大切だけどね?でもこんな状況で言う言葉じゃないと思う!

 

場違いなことを言ったにもかかわらず、竜がとくに気にした様子がなかったのは幸いだった。

なぜならここは、その気になればぼくをゴミのように踏みつぶすことだって簡単なデンジャラスゾーンだ。

正直に言おう。状況が状況じゃなかったらへたれこんで泣いているところです。

 

竜が口を開いたので思わず身構える。一体、竜ってどんな言葉を使うんだろう。

 

<人間よ。話とは一体なんだ?>

 

 

―――ばりっばりの人類言語だった。