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―7―




『わたし、おおきくなったら冒険者になる! 冒険者になって、いろんなところに行きたい』

『いろんなところ?』

『おばあちゃんが、むかし冒険していた時のことを話してくれた。 七色の羽をもつ鳥とか、水晶でできたお屋敷とか、いろんなすごいものが、せかいにはいっぱいあるって』

『・・・ぼくも一緒に行きたいな。 エミィと一緒に行って、いろんなものを見てみたい』

『じゃあ、わたしが”ぱらでぃんないと”になって、ディンを守ってあげるのじゃ』

『ううん、ぼくが、エミィを守るよ。 だって、男の子は女の子を守るものだって、おとうさんが言ってたもん』

『泣き虫で、いっつもわたしの後ろにいるのに?』

『大きくなったらおとうさんみたいに強くなるから! ぜったい、エミィを守れるようになるから!』









―――朝
「…………夢か……」
この日の目覚めは、良いか悪いかときかれれば、どちらともいえないかなり微妙な気分だろう。
見えたものは、自分でもすっかり忘れていた昔の出来事。
難しいことなど何も考えずに、夢だけを語っていた幼い頃の自分達の姿だった。
「パラディンナイト、か」
自分の手の平を見つめ、夢の中身を思い返す。
なにかになることをきめるきっかけなんて言うものは、そのほとんどがほんの些細なものでしか無い。
自分の場合も、それまで守られていた自分を変えたくて……それだけの事だったような気もする。
何も全てを守るなどという完璧は求めていないが、仲間一人を守りきるくらいの『盾』でありたい。
それを思うと、未だに傷つくことがあるエミリアの姿も思い出されてしまう。
それも思いのほか頻繁で、正直に言わせると、自信もなくなってくる。
「俺だけじゃ、駄目なのか…?」
小さな頃、自分より年下のクセに、いわゆる『いじめっ子』や、ちょっとした災難から弱かった自分の盾になって守ってくれていた彼女。
そんなエミリアを、自分の手で守ると言うのは、思えば半ば意地のようなもの。
今見た夢で、それを思い出した……いや、理解した。
『あと一人』前で戦う仲間がいれば、彼女が傷を作る事も無いかもしれないが―
「な~にを難しい顔をしとるか、もう日も昇っておるぞ?」
「エミィ……と、ティール?」
そういえば、昨日は同じ部屋に泊まっていた。
すでに二人とも着替えていて、外へ出る体勢になっている。
「もう出るのか? そんなに焦っても見つからないもんは見つからないぞ」
「わかっておる。 しかし早く行かんと食堂が他の支援士の連中で埋まってしまうからの」
「『鉱石』の噂が流れたおかげで、支援士がいっぱい来てるからね。 売る側にしたらお得な話だよ」
「……そうか。 ならとりあえず着替えるから、先に行ってくれないか。 よかったら席でもとっておいてくれ」
「うむ、早くするのじゃぞ」
「ディン、後でね」
二人はそれだけ言いのこして部屋から出て行った。
彼女達の荷物もすでにこの場に無く、一緒に持っていってしまったという事だろう。
「…あと一人、か」
自分の着替えに手を掛けたところで、ふと、つい先程思った言葉を口に出す。
彼女が自分で言っていた、スピード特化型のブレイブソード……恐らく防御力を犠牲にして、攻撃力とスピードに力を注いでいるタイプだろう。
それだけ聞くと軽戦士(ブレイザー)に近い印象もあるが、扱う武器がハルバード系の槍と言う点で違う。
……パワーと防御力を武器にする『重戦車』のような自分とは相反するブレイブソード。
彼女に組んでもらえれば戦力のバランスもとれるし、恐らくそれだけで飛躍的に戦力は上がる。
「…………頼んでみるか」
自分一人で守りたいというのは、例えできたとしてもただの自己満足でしかない。
パーティーは強いにこしたことは無い……そう思い、この場での彼の結論は固まっていた。






「どうしたのじゃ? なにやら元気が無いように見えるが」
宿と一体化している食堂に入り、先に朝食を始めていた二人と合流して、自分も適当な物を注文して席につく。
その間、発現らしい発言は一切無く、元々自分からあまり喋らないタイプとはいえ、確かに元気が無いという印象をもたれてもおかしくは無い態度だったかもしれない。
「いや、ちょっと考え事をな」
などと当たり障りの無い返答をし、朝食を口にする。
エミリアは少し訝しげな表情でその様子を眺めていたが、特に気にする必要もないと判断したのか、特に追求はせずに自分の食事に再び手をつけ始めた。
「おおそうじゃ、実は少しティールと話してみたんじゃが、ひとつディンに相談があるのじゃ」
かと思いきや、思い出したように再び口を開くエミリア。
「…なんだ?」
「うむ、今回の鉱石探しじゃが、ティールが手伝ってくれると言うのじゃ」
「…………」
あまりにもタイミングがよすぎる。
その言葉を聞いた瞬間に、脳裏に浮かんだのはその一言だった。
自分もついさっき『仲間になってもらおう』と思ったところで、その矢先に向こう側からのパーティーを組もうという要請。
「鉱山くらいなら私は大丈夫だし、どうせ暇だしね」
「……ああ、それはありがたいが、何故だ?」
本人は相変わらず気楽そうな態度でいるのだが、ディンからすればその真意は測りかねる上、あまりに都合がよすぎて逆に疑いたくもなってくる。
「強いて言うなら、なんだか危なっかしい気がしたからかな」
「ぐっ……」
どういうわけか、やけに強く脳裏にこびりつく役不足、という一言。
その単語が、彼の”反論する”という行為を封じ込めている。
「戦力の話じゃないよ。 そういう意味だけなら、あなたは役不足なんかじゃない」
しかし、その様子に気付いたのかどうかは不明ながら、まるでディンの自問自答をフォローするかのような一言を放つティール。
ただ、戦力の話では無い、という部分がまた別の疑問も引き出してくる。
「…どういう意味だ?」
「まだ、なんとも言えないよ。 私自身漠然と、ただそう思っただけだから」
「ムダじゃよ。 私も同じ事を聞いてみたが、帰ってくるのは同じ答えばかりじゃ」
「……」
「まぁ、確かにまだ数時間程度の付き合いじゃ。 なんとなくそう思いはしても、はっきりとどこが危ういのかなど分かるはずもないし、言えるはずもない」
「……ならエミィは、どういう意味だと思ってるんだ?」
『役不足』と最初に言ったのは誰でもない自分だったが、その直後に肯定したのはまぎれも無くエミリアだった。
それは、ある程度自分の中の『何か』を理解しているからこそである、とディンは思っていた。
だからこそ、曖昧なものでも答えが聞けるのでは無いか―とも。
「そうじゃの……戦力では無いとすれば、精神論ではないかと思うのじゃが」
「精神論?」
「要するに、自分でどう思うかじゃな。 こいつの言葉は何に対してのものなのか、までは分からぬが…」
エミリアの言葉を受け、ティールの方へと視線を向けると、まるで自分には関係ないとでも言わんばかりの顔で、スプーンの上のスープをすすっている。
その態度のせいか、二人とも出すべき言葉が見つからず、ただ口元を引きつらせることしかできなかった。
「……ま、まぁ悪い事を考える人間だとは思えんが、ディンはどうなのじゃ?」
「ん……ああ、確かに悪意は感じないが…」
とは言ったものの、それはあくまで『現時点』の話。
先ほどエミリアが言った様に、数時間程度の付き合いでわかる相手の事などたかが知れている。
わかるとすれば、なにかしら自分と共感できる雰囲気を持っているくらいだろう。
月並みな言い方に言い換えれば『昔の自分に似ている』、と。
「……ん? なにか?」
先程からの体性のまま、じっと見つめていると、キョトンとした表情で問い返してきた。
そのまま今度は、パンをスープに浸してかじりついている。
「いや、別に」
―考えすぎ、か
なんだかんだと言っても、相手は13歳の少女。
『なんとなく』の感覚で行動に移る事の多い年齢で、恐らくあの言葉もその延長線上のものだろう。
気にならないと言えば嘘になるが、この場はそう思うことにした。
「……わかった。 とりあえず鉱石探しの間、頼めるか?」
そう言いながら、ディンは右手を差し出す。
「うん。 報酬―は護衛とは違うから別にして、拾った道具は山分けってことで」
ティールはすこし微笑むとその手を握り、そう答えた。




「……なんか今、べとっとしたんだが…?」
「ティール、手にスープがついているのではないか?」
「あ、ホントだ」

―前途多難―
そんな四字熟語が脳裏をかすめたディンであった。

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