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―8―





―モレク鉱山
元々鉱山の町モレクの山男達が、鉱石の採取に使っていた鉱山で、それゆえに町のすぐそばにあるダンジョンでもある。
幸いな事に、内部の魔物は太陽光が苦手らしく滅多な事では鉱山の中から出て来る事は無い。
が、逆に言えば一歩でも中に入ればそれだけ危険度が増すとも言える。
「はっ!」
ディンは自分達の道を塞ぐ泥人形(クレイゴーレム)>の一撃を、その巨大な剣を盾がわりにして受け止め、弾き飛ばす。
目の前にいるゴーレムは図体は人間より大きいが、せいぜい頭一つ分で、耐久力も見た目ほどは無い。
「クロスブレイク!!」
ゴーレムが二撃目を放とうというその瞬間、一歩下がったディンの前にティールが割り込み、その長い槍を振り回し、胸の辺りに十字の傷を刻みこむ。
その一撃で少しのけぞるようにふらつくゴーレム、ティールはそのままヒットアンドアウェーの要領で相手の射程から離れ、ディンはしゃがみこむように自らの体勢を低くした。
「アイスニードル!!」
さらにエミリアの呪文と共に放たれた特大の氷の槍が、しゃがみ込んだディンの頭上を通り抜け、その十字の傷に深々と突き刺さり、その傷はさらに大きく広がり、全身に微細な傷が刻みこまれる。
そして……
「ディヴァインスレイ!!」
『神の一閃』に立ち上がる勢いも加え、氷の槍が突き刺さった箇所に渾身の一撃を放つ。
その瞬間、衝撃が耐久力を超えたのか、全身のヒビから崩壊を始め、崩れ去ったゴーレムは、乾いた泥の山になってしまった。
「うむ、このパーティーの初陣にしては上出来じゃな」
その泥の山を前に満足そうな笑みを浮かべるエミリア。
少しはなれたところに着地していたらしいティールは、微笑んで二人の元に戻ってきている。
「『盾』と『剣』と『大砲』……3つ揃っていればこのくらいは当然だな」
「『剣』は私の事かな? まぁ、確かに盾になるには私は脆いよね」
とは言っているが、その分彼女はあまりあるスピードとパワーを披露してくれている。
「じゃが、おかげで私も安心して魔法が使えるのじゃ。 一人増えただけで随分変わるものじゃな」
「まあ、鉱石探しの間だけのパーティーだけどね」
「それでも充分心強いのじゃ。 13にしてこれなら、私達くらいになったおぬしはどうなるのか楽しみじゃな」
「……冷静に考えたら、確かに末恐ろしいな」
ぱっと見、今の戦闘では全力を出しているようには見えなかった。
このサイズのクレイゴーレムならば、この鉱山ではそこそこ強めの部類にはいっているが、それをパーティーを組んでるとはいえ平然と相手にするということは、間違い無く”それなり”の力をもっているということになる。
「しかし質の悪い泥じゃなー。 不純物が多くて泥パックにすらならんぞ」
とかなんとか言っている間に、エミリアはどこからとりだしたのか、スコップでガシガシと泥の山をつついていた。
純度の高いクレイゴーレムの泥は、顔に塗ると美容にいいらしい。
―ディンに言わせれば、魔物の残骸を身体に塗るのはどうかと思う、ということらしいのだが、エミリアが言うには『鉱石系のゴーレムは周囲にある自分の身体を構成しているのと同じ物質をとりこんで再生するため、残骸のそれはそのへんにある泥と実質何も変わらない』だそうである。
ただ、クレイゴーレムは基本的には『泥』のみを吸着するために、比較的純度の高いものが採れる事が多いらしい。
「……エミィ、それはもういいから次行くぞ」
「うむ、そうじゃな」
頭を抱えつつ呼びかけるディンの声に、その行動に飽きたらしいエミリアは、スコップをしまって立ち上がった。
「いつもこんな調子?」
「ん? まぁ、結果的に高く売れるアイテムが手に入るから、旅をするにしてもあの才能は重宝してるが……まぁ、そうだな」
「ふぅん」
この後に、頭痛の種でもあるけどな、と付け加え、聞こえていたらしいエミリアに杖の柄で一撃食らわされる。
その一劇は、つっこみとしては思いの外強烈だったらしく、物理的な頭痛に再び頭を抱えるディンだった。
「……しかし、こんなサイズのゴーレムが、こんな浅い場所にいるのは珍しいのぉ」
「っつ~…… そ、そういやそうだな。 このレベルなら、もう少し奥―『巣窟』付近にでも行かないと見られないはずなんだが……」
「たまたま出てきたんじゃないとすれば……上級モンスターが奥に住みついたとかかな?」
「上級だって?」
ティールの一言に反応するディン。
―馬鹿でかい魔物を見た―
それと同時に、モレクで酒場のマスターから聞いたその情報を思い出す。
「なるほど、強い者が住みつけば、弱い者は遠ざかる……自然の摂理じゃな」
「……だとすれば、巣窟内は俺達でも少しきついかもな。 覚悟して行かないと」
「……で、『巣窟』までどのくらいかかるの?」
「そうじゃな……それほど広いダンジョンでもないから、2~30分ほど歩けば大丈夫じゃろ」
「ま、とにかくジッとしてても仕方ないだろう。 先へ進む…ぞ……」
「ん? どうしたのじゃ?」
妙にディンのセリフの締めが歯切れの悪いものになり、エミリアはその顔を覗きこむ。
どうやら、なにかを見て絶句しているらしく……エミリアとティールは、ディンが見つめているのと同じ方向へと、恐る恐るその目を向けた。
「……げ」
この声は、二人のうちどちらの口から出てきたものなのだろうか。
そんな事も認識できなくなるくらい、衝撃的な光景が背後に広がっていた。
「……エ、エビルプラント」
「の、大群……じゃな」
どこから出てきたのか、わさわさと湧き出てくる植物系のモンスターであるエビルプラント。
毒々しい植物のつるがそのまま動き出したかのような外見は、ここまで群がられるとはっきり言って気持ち悪い。
確かに普段から群れている事の多いモンスターだが、これほどのものは二人でも始めてだった。
「ゴーレムが取り込んだ泥の中に潜んでいたか、今の衝撃で地中にいたのが目を覚ましたか…かもね」
そんな中で、ティールは冷静に状況を分析していた……ように見えたが、その表情は今までに無くひきつっている。
これはこれで動揺しているらしい。
「まずいな、逃げるにしてもこの数じゃ難しいぞ……」
なんとか平静を取り戻したディンが、改めて剣を構えて、目の前の大群と対峙する。
「……来るよ」
ティールのその声と同時に、エビルプラントの一団がこちら側に向かって攻撃を仕掛けてきた。
ディンは、つるのような全身をムチのようにしてくるその攻撃を、なんとかかわしつつ、数体を纏めて斬りとばす
ティールはティールで常に一定の距離をあけるようにして槍をふるい、同様にそれらを切り裂いている。
「雷の精霊よ 我が前に在りし敵を包みこめ! サンダーコート!!」
同時にエミリアの声が響き、1メートル程度の円形範囲が、雷の渦に飲み込まれた。
……しかし、それでもまだ収まりがつかず、徐々に周囲を囲まれてきている。
「くっ…!」
ディンの手が届くかという位置で、一体のエビルプラントの一撃がエミリアの身体を打ちつけた。
「エミィ!? 近づきすぎだ! 下がれ!!」
「……案ずるな、奥の手を使いにきただけじゃ」
そう言いながら差し出した手には、小さく硬い、ひものようなものが1本くっついている、赤い球のような物体。
その表面には『DANGER』と黒い文字で書かれている。
「っておい、それは……!」
「下がるのはディンの方じゃ!」
「ティ…ティール伏せろ!!」
「え?」
「フレア……ボム!!」
ディンの身体を押しのけて、マッチでひもの先端に火をつけて、エビルプラントの群がる中心部のあたりにその球を投げつける。

……その数瞬後、轟音と激しい揺れと共に、敵の団体の中心から爆発し、燃え上がる炎。
植物系のモンスターであるエビルプラントは、炎系の一撃でよく燃えるようだった。
「ふぅー…危なかったのぉ」
爆発を逃れて残っていたものも一掃し、額の汗をぬぐうエミリア。
その表情は、そこはかとなく妙な爽やかさを演出する、清々しい笑顔だった。
言い換えれば『スカッとした』、という言葉が一番適応するかもしれない。
「危なかったのぉ、じゃない!! こんな洞窟で爆弾使って、崩落したらどうする気だ!!」
「あのまま出さなかったらどのみちタダではすまんかったじゃろ」
「……エミィって、爆弾持ち歩いてるんだ」
「うむ。 私は『氷牙』と『轟雷』の魔法のみじゃからな。 『炎』が弱点の敵に対応しようと思えば、それなりの道具がなければいかんのじゃ」
ミナルでレイスから『いつものアレ』という一言で受け取っていたものが、この爆弾だったりするというのは、本人達とディンのみが知る事である。
……実際のところ、植物系との乱戦に放り込むのは今に始まった事でも無い。
「だからってお前なぁ…………はぁ……ったく。 そういやさっき一発食らってたが、大丈夫か?」
あきらめたように肩を落としながら、話題をかえるディン。
さすがにこれ以上無駄な論争をする気も起きなくなっていたらしい。
「む、ちょっと傷になっているようじゃな……」
腕でガードはしたのか、手の甲に一筋の傷。
ほんの少しだが、傷口から赤くはれあがっているようだった。
「こいつら毒あるからな、吸い出しとけよ」
「わかっておる……っと、ディン、やってくれるか?」
「バカ。 手なら自分でできるだろ?」
「冗談じゃよ」
そう言いながら悪戯っぽい笑顔を浮かべて、傷口から軽く血を吸い出すエミリア。
ディンはその様子を見計らい、その手を口から離したところで、傷口に自分の手を重ね、深呼吸を一つ。
「リラ」
そして口にするのは、聖術による治癒魔法。
本職である教会の者達には負けるものの、この程度の傷ならば、特に問題なく治せるようだった。
「ったく、お前が何度も怪我する理由が分かった気がするよ」
「自分の力不足か?」
「それもあるかもしれないが、マージナルがいちいち前に出すぎなんだ」
「じゃが、あそこに私がいなかったら、ディンが毒でも受けていたかもしれんぞ」
「それが(パラディンナイト)の役目だろ………大丈夫だとは思うが、一応毒消しも飲んどくか?」
手を離して傷が塞がったのを確認すると、今度は小さなカプセル状の錠剤を取り出す。
「用意がいいのはディンも同じじゃな」
そう言って笑いながら先ほど吸い出した口の中の血を水筒の水で流し、ディンに渡された錠剤を一粒、改めて口に含んだ水と共に飲み込んだ。
「……俺は爆弾まで用意するのは過剰だと思うぞ」
「確かに」
ティールも洞窟内の爆弾という行動には少しひやりとしていたらしく、苦笑してディンの言葉に同意している。
エミリアはどことなく不服そうな表情を見せてはいたが、二人が言いたい事は分かっていたのか、反論はせずに黙って立ち上がるだけだった。
「…さて、それじゃ改めて、『巣窟』に出発しようか」
そして、二人のそんな様子を眺めながら号令をとるティールの声。
その声に従い、三人はエビルプラントの焼け野原を後にした。

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