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その後道中に何度かモンスターと遭遇しつつ、エミリアの目標以外のアイテム探索も交え、3人は炭坑の奥へと進んで行った。
『巣窟』付近まで来ると、昨日の二人のように、中まで行かずともどこかにあるのではないか、と踏んでいるであろう、クリエイターを引きつれた支援士達ともなんどかすれちがう事もあった。


「ふぅ…さすがに中まで来ると足場が悪いな。 エミィ、大丈夫か」
そんな彼らを尻目に、3人は巣窟内部へと足を踏み入れる。
内側は炭坑と違い人の手が一切はいっておらず、洞窟としての広さもまちまちなのは当然ながら、人工的な明かりが無いどころか足場の悪さも今まで以上のものだった。
「大丈夫じゃ。 ……しかし、どうやら何人かがすでに入った形跡もあるようじゃの……」
「ま、話が出てきて1ヶ月だからな……ダンジョン慣れしてるやつなら行くのも出てくるだろう」
そんな状況でも、ところどころにこびりついた光ゴケのわずかな発光を元に、足元の状況を確かめながら歩いていく。
その場所には、何人かの人間が踏み込んだような足跡が、靴から落ちたであろう泥でかたどられている。
「しっかし、こんな場所に新種の鉱石がねぇ……」
「何を言うか、こんな場所だからこそ、じゃよ。 人の手が加えられていないということは、まだ人に見つかっていないものがある可能性も高いのじゃ」
それだけこの場が荒れている、ということを物語っているかのように、一歩歩くたびにカラカラと小石が転がる音が聞こえてくる。
エミリアとディンが今まで入ったことのあるダンジョンは、崩壊したシュライン『グノル』の上層、『巣窟』を除いたモレク鉱山、砂上墓所…と、比較的人の手が加わった場所がダンジョン化していた部分が多い。
そのためか、不慣れな天然洞窟という不安定な足場は、一歩歩くのにも注意を促されるかのようだった。
「でも意外と明るいよね。 光ゴケがうまい具合に生えてるみたいだし」
「そうじゃな。 採取していきたいところじゃが、持っていくと帰りに暗くなりそうじゃしのぉ…」
「一応ランプは持ってきてるが、油は無限じゃない。 どこまで潜るかわからない以上、使わないですむなら使わないほうがいいぞ」
「そのくらいわかっておる」
とは言ったものの、薄暗いということには変わりなく、黒っぽい色をしたモンスターでも現れようものなら、こちらが気づく前に襲われる可能性が高いという事実は隠せない。
どこか奥の方から聞こえるモンスターの声に注意しつつ、3人はゆっくりと歩を進める。
「……しかし、巣窟というわりにはモンスターが出てこないな……」
「うむ……出ないにこしたことはないのじゃが、ここまで何もないとかえって不気味じゃの…」
「…近いのかもしれないね、例の馬鹿でかいっていうやつに」
「……」
思えば、そんな大きい魔物が今の今まで見つからないはずがない。
それが最近になって発見されたということは、『いままで踏み込む者が少なかった場所で』発見された、というのが一番納得のいく答えだ。
……つまり、自分たちがいるこの場所、『巣窟』内部ということになるのだが……
「あのさ、今までここまで踏み込んだことがある人っているの?」
その時、ふとティールがそんな一言を漏らす。
「ああ、それなりに熟練した支援士のパーティが、調査のために少し奥まで行ったって話は聞いたことあるな」
「と言っても、それはほんの数回程度という話じゃ。 鉱石を探すなら、鉱山側で十分じゃからのぉ」
「ふーん……で、なにか情報はなかったの?」
「うむ、その者達の話によると、入り口から少し行ったあたりに…」
「エミィ、ティール止まれ。 何かいるぞ」
ディンが右手をサッと上げ、二人の足とエミリアの言葉を制止する。
そしてその言葉に従い前の方を見てみると、床や壁についた血の跡と……コウモリや植物系統の魔物の群れ。
しかし、それらは三人が近づいても、ピクリとも動く事は無かった。
「……既に死に絶えているようじゃの。 飛び散った血が固まっているところを見るに、多少は経過しておるようじゃが……」
「……あ、二人ともあそこ」
「どうした?」
ティールがすこし奥の方を指差し、それに続くようにその方向へと目を向ける二人。
その先には、一人の支援士と思しき人影があった。
……負傷しているらしく、壁によりかかって息を荒げている。
「…エミィ、包帯と傷薬、それと氷だ」
「うむ、わかった」
エミィが『アイスコフィン』の呪文で小さな氷の塊を出し、薄手の皮袋の中に入れ、傷薬、包帯と一緒にディンに手渡す。
ディンはそれらを受け取ると、エミリアとティールに少し下がったところで待つように指示し、その支援士に近づき、呼びかけた。
見たところ20代後半といった青年で、傍に落ちている戦斧から察するに狂戦士(ベルセルク)だろう。
「ぐっ……人…か?」
「ああ。 悪いが勝手に世話させてもらってるぞ」
目に見えている傷から、手早く処置に入るディン。
しかし傷というより強烈な打撃による大きめのアザが多く、骨の一本や二本は折れているのではと思わされるほどだった。
「……情けないな…… 万全なら、この程度で倒れることなど……」
斧を含めた装備一式は傍目にも相当使いこまれており、彼が熟練の支援士である事を物語っている。
先ほど目にしたモンスターでは、おそらく彼の進行の妨げにすらならなかっただろう。
「”万全なら”……と言うことは、何か他の要因があったと言うことじゃな?」
「……奥に行くつもりなら、気をつけろ………化け物が……いる」
「”化け物”、ね」
男の言葉を、ティールが反復するようにして口にする。
その顔は、見る相手に特に何も感じさせる事の無い無表情なものだった。
「……巣窟から出れば、他の支援士の連中がいる。 一人くらい聖術が使えるヤツはいるだろう。 送るか?」
ちらりとエミリアの方へと目を向けつつ、そう一言。
エミリアは特に異論は無いのか、何も言わずにただその光景を眺めたままだった。
「……いや、いい。 俺にも、プライドはあるからな……これ以上の世話は、無用だ」
少しよろめきながらも、右腕でしっかりと戦斧を握り、立ち上がる。
左手を壁に添えて身体を支え、ディン達が来た道を、ゆっくりと歩き始める。
「治療、感謝する……鉱山くらいまでなら、辿りつけそうだ」
振り返らずに、呟くような声でそうもらすと、男は立ち去って行った
「……で、どうするエミィ」
余った包帯と傷薬をエミリアに返しつつ、そう口にするディン。
エミリアは少し考えるような表情をするが、鉱石を探し出す、という決意の方は揺らぎが無いのか、強い意思を感じさせる表情で、口を開いた。
「探索は続ける」
「だろうな。 ……だがこの奥は化け物だと言っていたが?」
「なら、別のルートを考えればよい。 いくつか分岐路もあったじゃろう」
「賢明だな。 ティールもそれでいいか?」
「…………」
ディンが呼びかけるも、『奥』に目をやったまま微動だにしないティール。
その表情は無表情というわけでもないが、なにか特定の感情があるとも言いがたい、複雑なものだった。
「ティール、どうしたのじゃ?」
「……エミィ、ディン……これは私の推測だけど、多分、間違いないと思う」
「…何の話だ」
「この奥に、目的の物(鉱石)はある……化け物と、いっしょにね」

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