※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

『報告します!西門の部隊が劣勢!前線が後退しています!』

『こちらに援軍をください!そう長くは持ちません!!』

『報告!正門の敵主力勢力が第一防衛線を突破!ソルマラ隊長の率いる部隊が壊滅しました!!』

 

街の人々も寝静まった深夜、普段は静かな沈黙が支配しているはずのリエステールの街の一部では今、普段は決して起こらない異常な事態が起こっていた。

場所はプレスコット従騎士団の拠点、プレスコット家。

そこでプレスコット従騎士団が正体不明の勢力によって攻撃を受けていた。

闇夜に紛れて奇襲を仕掛けてきた敵対勢力を前に、不意の攻撃で混乱した騎士団は態勢を立て直しきれずに劣勢を強いられていた。

 

「ライト殿!」

伝令の騎士が戦場の様子を見ていたライトに向かって来て戦況を報告した。どれもよくない報告ばかりだ。

その報告を聞きながら、ライトは忌々しげに言った。

「くそっ!先手を打たれた!こっちの情報が漏れてやがったか!」

「まさか、どうしてそんなことが・・・」

「こっち側の奴の中に情報を漏らした奴がいるんだろ!」

「まさか、そんな!」

「まさかでもそんなでもないだろ!現にこうして漏れてんだからな!お前はクローディアに戦況を報告して来い!」

 

そう言い捨てるとライトは再び前を向いた。

状況は最悪だ。

敵の勢力はもう屋敷の目の前まで迫っているうえに、不意の攻撃でプレスコット従騎士団の戦力は大幅に低下した。今はギリギリのところで堪えているが、疲弊している騎士達ではこのままでは時間の問題だろう。

 

それに作戦が漏れていたということは、各地で展開していた各騎士団も同じように奇襲を受けている可能性が高い。

闇夜に乗じて敵陣に迫り、そして敵に反撃の機会を与えることなく一瞬で制圧するというこの作戦は、完全に潰されたといってもいいだろう。

 

「ったく、こっちには時間がないってのに・・・!」

いつまでたっても好転しない現状に焦りが生まれるなか、騎士達の間を掻き分けてティラがこちらまでやって来た。彼女の表情にもまた、焦りの色が浮かんでいる。

「ライト、作戦はどうなったの?」

「決行する前に失敗。どころか下手したらこのままプレスコット従騎士団が壊滅する」

淡々と放たれたライトの言葉に、ティラに顔が青くなった。

「そんな・・・!じゃあリーちゃんは!?」

少女の声に、ライトは無言で歯を噛み合わせた。

彼女としては、一刻も早くリインを助けに行きたいだろう。だが、そんな願いもこの現状をどうにかしない限りは叶うことはない。

 

無言のままのライトを見て、ティラも暗い表情で押し黙ってしまった。

 

***

 

「フォルツェ中隊長!このままでは持ちません!」

「まだだ!ロードン様の率いる本隊が来るまで持ち堪えるぞ!」

 

北部の首都、リックテールとシュヴァルを繋ぐ街道の途中、そこで先攻部隊として先に進軍していたシルバリィホーン騎士団の一部隊が、謎の勢力からの攻撃を受けていた。

部隊を指揮しているのはフォルツェ・エスレキア中隊長。

シルバリィホーン騎士団の中でも騎士団長の右腕と称される程の実力の持ち主だ。

 

「フォルツェ中隊長!」

乱戦の様相を呈するそんな中、一人の少女が声を張り上げてフォルツェの元に駆け寄ってきた。

それを見るなり、フォルツェは驚いたように目を瞠る。

「ベティお嬢様!?なぜこのような所にいるのですか!」

 

少女の名前はベティ・ベルレフォート。

貴族であり、また自らが創設したシルバリィホーン騎士団の騎士団長でもあるロードン・ベルレフォートの愛娘である。

本人は支援士として活動しており、南の<パピードラゴン>のそっくりさんとも噂される彼女であるが、それでも正真正銘のお嬢様であり、フォルツェの記憶が正しければ今回の掃討作戦には参加していないはずだった。

「お父さんに志願したんだよ」

驚いているフォルツェに、ベティはいたずらっぽく笑った。

それを見るなり、フォルツェは顔をしかめる。

ベルレフォート伯爵の娘への溺愛ぶりは北では有名な話だ。そんな娘からの頼みならば、余程のことがない限り彼は聞き入れるだろう。

今は伯爵とそれに従う騎士という立場だが、昔から親友のような間柄のフォルツェからしたら、内心「なにをしているんだあいつは・・・!」という心境だ。

「あ、でも勘違いしないでね」

そんな彼の表情から察したのか、ベティが言った。

「本当は、お父さんも結構しぶったんだけどね。私が無理矢理に押し通した感じかな」

「なぜそのようなことを・・・」

フォルツェの問いに、ベティはあっけらかんと言った。

「だってこの掃討作戦、ライト兄ぃの発案でしょ?だったら私も役に立ちたいと思ってね」

「しかし、ここは非常に危険です。ベティお嬢様に何かあったら・・・」

「でも、戦力は多いほうがいいと思うけどね」

「ですが、やはり危険です。・・・やはりベティお嬢様には離脱してもらって―――」

「フォルツェ中隊長」

有無を言わせない強い口調でフォルツェの言葉を遮り、そしてベティは、フォルツェの目をまっすぐと見て、

「大丈夫。もう私は守られているだけの子供じゃないよ。自分の身は自分で守れるし、それに―――何かが掴めそうな気がするんだ。私が前に進むための何かが」

と言った。

「・・・・・・」

ベティから言われた以外な言葉に、思わずフォルツェは目を丸くする。

それは、少し前の彼女からは聞かなかった言葉だ。

南に用事があると言ってリエステールに出かけていたが、その間に何があったのか。

少し見ない間に少しだけ成長した少女を見て、フォルツェは口元に少しだけ小さな笑みを浮かべた。

「・・・分かりました。では私の背中はお預けしますよ。ベティ様」

「まかせて!」

 

***

 

「先輩!もう持ちませんー!」

「まだだぁ!根性見せろやお前らぁ!!」

「イエッサー!!」

リックテールの街中、そこでも謎の勢力の奇襲を受けた集団がいた。

リックテール第2騎士団。

騎士団、とはあるが、別に貴族の私設騎士団ではなく、どちらかというと有志達が集まって自然と出来た自警団と捉えたほうが正しいだろう。

自警団に限りなく近いこともあり、そこには様々なジョブの人々の姿があり、統制された騎士達とはまた違った戦い方をしていた。

そして連携した戦術よりも個々人の技量に重点を置いている為か、奇襲された他の騎士団のような混乱も少なく、謎の勢力とも互角に渡り合っている。

 

「ヴァジルさん!南の連中が勝利したみたいです」

「そうか。では南の奴らは他の場所の援護に向かってくれ。無理はするなよ」

「了解!」

 

そんな戦場に彼の姿があった。

彼の名前はヴァジル・リュークベル。

南で有名となったアルティアを守る剣士、ヴァイ・リュークベルを弟に持ち、そして自らもリックテールで一番強いのではと噂される凄腕の支援士だ。

 

ヴァジルは味方に的確な指示を与えつつ、戦場の光景を見て目を細めた。

(まったくあのコソ泥野郎、作戦が敵にダダ漏れじゃねぇか。そっちで情報はきちんと管理しやがれ・・・!)

「ヴァ、ヴァジルさん!?なんか物凄く怖い顔をしていますけど、どうかしたんですか!?」

偶然近くにいた支援士の1人がヴァジルの顔を見てぎょっとする。

いつも冷静でクールな彼からは想像もつかないような、まるで憎い怨敵を前にしたような表情だ。ぶっちゃけスゲー怖い。

「ん?ああ、すまない。少し考え事をしていた」

「は、はぁ・・・」

「それより俺達も行くぞ!ついてこい!」

「りょ、了解!」

 

***

 

「クウヤさん。こっちは終わりましたよ」

「そうか。こちらもいま終わった」

 

雪の降り続ける、夜の十六夜。

クウヤ・リュウセンの率いる討伐隊は、いざ敵の本拠地に向かおうとした矢先に、背後から敵の奇襲攻撃を受けた。

―――だが、戦闘は既に終わっていた。

クウヤ達が組織した討伐隊は、歴戦の猛者達と、ついでにそこらで暇を持て余していた武人達も引き入れた強力な集団になり、さらに奇襲攻撃も開始前に察知できていた為、特に問題もなく片づけることができた。

 

「しかし、ライト殿の作戦が漏れるというのは珍しいですね・・・」

クウヤは自らの持つ無名の刀を血振いして鞘に収めながら1人呟いた。

しかし、まだ自分達の目標を達していないことを思い出し、頭を切り替える。

「さあ、多少の邪魔は入ったが、作戦に支障はない。敵の本陣に攻め込むぞ!」

 

十六夜の夜空に、武人達の雄たけびが響き渡った。

 

***

 

「パウロさん。敵の拠点はすでにもぬけの殻でした」

「そうですか。ということは、やはり『アレ』か」

「はい。恐らく『アレ』ですね」

そう言ってアクアローズ騎士団・騎士団長のパウロ・リーマリーとその部下は『アレ』と呼ばれた物を見ていた。

暗い夜の海に浮かぶ、1隻の巨大な船。そして、それを囲むように配置された何隻もの護衛艦。

恐らく、こちらの情報を事前に掴んだ敵勢力が、こちらを迎え撃つために準備した布陣だろう。

 

「ライトさんの情報が漏れるというのも考えづらいですが・・・。ところで、準備の方は?」

「すでに完了しています」

部下の言葉に、パウロは静かに頷いて後ろを振り返ると、そこには準備を整えたアクアローズ騎士団の面々が揃っていた。

 

アクアローズ騎士団は、他の騎士団がパラディンナイトやレンジャーナイトといった重装備のジョブを主力にしているのと違い、ブレイブマスターやアーチャー系のジョブ、それからフェイタルスキルなどの軽装備のジョブの人々で構成されている珍しい騎士団だ。これは陸上よりも、海上で魔物や海賊を相手にすることを主な目的にしているからである。

 

「さて、敵は随分と強固な戦力を整えているみたいですが・・・何か問題はあるか?」

「まったく問題はありません」

部下の返答に、パウロは大きく頷き、そして自らの武器を空へ掲げた。それに習い、他の騎士達も各々の武器を空へと掲げる。

「そうだとも!我々の海で喧嘩を売ったことを後悔させ、奴らに我々アクアローズの力を思い知らせてやれ!護衛艦を奪取し、敵主力船を制圧する!行くぞ!!」

『『『おおおおおーーーっ!!』』』

静かな海に、大砲の砲撃による開戦の合図が轟く。

 

***

 

「なぁ、本当にこっちには来ないのか?」

「ああ、奴らはここを1人で制圧するとか言っていたみたいだからな、さすがにそれは冗談だろ」

「そうか。じゃあ今夜は暇だな」

 

モレクの一画、そこの拠点では、入口を見張る2人がそんな会話をしていた。

事前に敵の作戦は分かっていたが、ここだけは他の騎士団の襲撃情報もなく、なお且つそんな冗談のような話しかなかったので、見張りも特には警戒をしていなかった。

これは、相手の情報が筒抜けだからこそ出てくる余裕の表れだろう。

 

粉塵の舞うモレクでは珍しく、星空が綺麗に輝いていた。

 

そこへ暗闇に乗じて、何も知らずに話しこむ2人の見張りに黒い影が忍び寄る。

そして黒い影は見張り達との間が一定距離まで達したところで、小さな何かを放ち、その小さな何かは2人いる見張りの内の1人の首へと吸い込まれていった。

 

トスッ、という小さな音が、その見張りの首から聞こえた。

「ぐぁ―――!?」

「お、おいどうした!?」

突然苦悶の表情を見せて倒れた仲間を見て、慌てて助け起こそうとしたもう1人の見張りに、音もなく黒い影が迫り寄る。

「余所見をするとは迂闊だな」

「誰だ!?」

「寝ていろ」

その一言と共に、ズンッという鈍い衝撃が、見張りの腹部に突き刺さる。

「かはっ―――」

腹部に受けた鈍い衝撃に耐えられずに、見張りはそのままその場へ倒れこんで気を失った。

 

再び辺りに満ちる静寂。

そして、夜空から降り注ぐ月光が、2人の見張りを倒した黒い影を照らし出した。

黒い影の正体は、アクセサリーのジャラジャラと付いた服に、黒いサングラスを身に付けた金髪の男。

 

「やれやれ、ダークの奴め、丸くなったというよりも詰めが甘くなったな」

金髪サングラスの男―――スコープはたった今倒した見張りを見下ろしながら小さく息を吐いた。

それは仕事がやり難くなったことへの溜息か、それとも昔と変わってしまった旧友に対しての気がかりか。しかし、サングラスを掛けた顔からはその感情は読み取れない。

 

やがてスコープは首を回し、両手の拳をバキバキと鳴らしてからポツリと呟いた。

「少し面倒臭くなりそうだが・・・、まぁいい。それじゃあゴミ掃除を始めるか」

 

***

 

「・・・しょうがねぇな。正直ここで動きたくはなかったんだが、そろそろ―――」

「~~~~っ、もう我慢できない!」

しばらくライトの隣で大人しく戦況を眺めていたティラが、とうとう我慢できなくなったのか声を張り上げた。それを見てぎょっと驚くライトとその他の大勢。

「うわっ!どうしたティラ!?」

「ライト!私はもう我慢の限界だよ!?そもそも私達はこんな所でのんびりしてる場合じゃないじゃないですか!」

「は?いや確かにそうだけどよ。お前ちょっと落ち着―――」

「だーかーらー。落ち着いてる場合じゃないって言ってるの!ライト私の話を聞いてる!?」

ふぎゃあ!と一気に捲し立てるティラを落ち着かせようとしたライトだったが、逆に火に油を注いでしまったらしい。ライトの言葉が終わる前に、ティラはさらに声を荒げていた。

 

「・・・落ち着けー」

『ライト。声が遠いですよ』

ティラのテンションに少し怯んだライトに、ティラの手に握られて(そして振り回されて)いるティタノマキアが口をはさむ。

「うるせぇ。じゃあマキア、お前が止めろよ」

『無理です。そもそもこうなったマスターは人の話を聞きませんから、説得は難しいと思います』

「チッ、役に立たない杖め」

『あなたには言われたくありません』

 

そんな言い合いが隣でされているにもかかわらず、ティラはそれを無視して未だ劣勢を強いられている戦場に向かってずんずんと歩き出した。

「って、おい!だから待てって言ってるだろ!」

思わずティラの腕を掴むライト。

すると、「私不機嫌です」と言わんばかりにアホ毛を揺らしながらティラが振り返り、ライトをジト目の上目使いで睨めつけた。

ついでにティラが振り返るのと同時に、彼女の手に握られていたティタノマキアがガシャン!と音を立てて変形し、4本の穂先を持つアタックモードにその姿を変える。

下手をしたらこちらに攻撃をしてきそうな雰囲気だ。

 

というか、リインが攫われてからというもの、ふんわりとした彼女の雰囲気が、なんかギラギラした獣みたいに変わっている気がする。

「・・・なに?ライトが手を離してくれないと前に進めないのですが」

ジト目のまま、ティラがどこまでも平淡な声で言う。

うわぁコイツ話を聞く気がねぇ。とライトは頭を抱えたくなってきた。ただ、まーここで頭を抱えても仕方がないので、説得を続行。

 

「いいかティラ。まずはこの現状をどうにかしないとリインを助けに行けない。そして今のままじゃ、お前にできることは何もないんだよ」

だから落ち着け。な?とライトはティラをなだめた。

「・・・なにもできない・・・ですか?」

するとその言葉を聞いた瞬間、ティラの表情がふっと和らぎ、にっこりと綺麗な笑顔を作って見せた。

 

―――ただし、目は、笑っていない。

 

「・・・うげ」

マズイ。と顔を引きつらせるライト。そこへ、にこにこ笑顔のティラが口を開く。

 

「えへへ、ライトったらー。―――・・・そんなのやってみないと分からないじゃないですか!見てろこんちくしょー!!」

爆発したティラはそう叫ぶと、ライトの掴んでいる手を振り切り、アホ毛を怒りで激しく左右に揺らしながら戦場へ一直線に突撃した。

「待て!早まるなティラ!!」

止めようと手を伸ばすライトだったが、そこに少女の姿は既になく、伸ばした手は虚しく空を切る。

「くそっ!あいつ・・・!」

一度舌打ちをして、ティラの後を追おうとしたライトだったが、そこへ彼を呼び止める声が上がる。

「おい!ちょっと待て!」

ライトが振り返ってみると、呼び止めたのはいつぞやの門番2人組の内の1人だった。

 

「ああ!?なんだよ雑用。今はお前に付き合ってる暇はねーんだよ」

「ふん。俺だって好きでてめぇに声をかけたわけじゃ・・・、って、おいだからちょっと待てって!」

長ったらしく何事か言っていた騎士を無視して前進しようとしたライトだったが、それに気が付いた騎士が慌てて制止させる。ちっ、ばれたか。

「なんだよ邪魔すんな。もし用があるなら短く要点をまとめて簡潔に言えっていうかこの時間が勿体ないからもう行っていいか?」

「くっ、貴様・・・!」

ライトの態度に青筋を浮かべて拳を震わす騎士だったが、自分のすることを覚えていたのか、殴りかかることだけはグッと堪えた。

「チッ、まぁいいだろう・・・。クローディア様からこれをお前に渡せと言われて来た」

そう言ってライトの手に渡されたのは、1枚の手紙。

それを少しの間眺めたライトは、顔を上げて騎士に聞いた。

「これは?」

「内容は知らない。先程、矢に結び付けられて飛んで来たらしい。その中身を見たクローディア様が、急いでこれをお前に渡してこいと言っていた」

それじゃあな。と言って、騎士はその場を去る。

それを見ることもなく、ライトは手紙を開いて内容を確認した。

「!これは・・・」

 

 

戦塵が舞い上がり、視界が悪くなった戦場を移動しながら、ティラはまだ不機嫌だった。

ただ、ティタノマキアを振り回しながら敵に殴りかかる。なんていう無謀な行為は流石に起こしていない。

ただ、自分の胸の内のむかむかやモヤモヤを発散させる為の捌け口にするかのように、敵に向かって放たれる魔法が、やたらと強力だった。

ズドンッ!!という普通ならありえない音で放たれた水の弾丸が、水の槍が、それに直撃した哀れな犠牲者を空高く吹き飛ばす。

攻撃の理由が騎士団への加勢というよりは八つ当たりに近いので、喰らう側からしたら迷惑な話である。

 

しかも少し時間が経ったら少しは落ち着くかと思えば、ライトの言葉を思い出してむかむかが再燃する。

「まったくライトは。私だってやればできるのにあんな言い方するなんて・・・!」

 

ぷりぷりと怒ってそんな独り言を呟けば、またむかむかしてきたので、それを吐き出すようにもう1発。

ズドーンとぶっ放された水の弾丸は見事に命中して、当たった不運な人はぐるんぐるんと回転しながらぶっ飛んで行った。

それを見てちょっとだけ胸がスッキリする。

 

―――でも・・・。

「ライト・・・怒ってるだろうなぁ・・・」

 

なんだかんだ言っても、やっぱり彼の手を振り払ったことに罪悪感を感じている少女だった。

 

せめて行動しただけの成果は上げないと。と再び勢い込んで歩き出す。でも、そこで何とも間の悪いことに、足元の僅かな窪みに足を取られて、体がぐらりと前のめりに傾いた。

「わっ、えっ、ととっ・・・うわぁあ!?」

寸での所で堪えようとしたものの、その努力も虚しく、目の前にどんどんと地面が迫ってくる。

倒れる!と思って思わずギュッと目をつぶった。

しかし、倒れた時の衝撃はいつまで経ってもやってこない。その代わりにやってきたのは、強く後ろに引っ張られるような感覚と、そしてふわりとした不思議な浮遊感。

「まったくお前は・・・」

その、聞き慣れた声を聞いて恐る恐る目を開けてみると、外套の襟元を掴んで体を待ち上げているライトが、呆れ顔でこっちを見ていた。

 

 

「クローディア様!報告します!」

「どうしたのですか?」

「騎士団、ようやく態勢を立て直し、敵勢力を押し始めました!そしてライト殿が、西方で固めている兵力を、全て正門と東方へ回して欲しいとのことです!」

「そうですか。それはよかった。・・・ですが、騎士達全てということは、西方は一体どうするのです?」

「そ・・それが・・・」

クローディアの問いに、報告をしに来た騎士が口籠る。それを見て訝しげな視線を送ったクローディアだが、やがて騎士がとつとつと言った。

 

「西方の敵勢力は、ライト殿がすでに・・・」

 

 

「ラ、ライト・・・」

あわや転びそうになったところをライトに助けられたティラは、その目を見て、思わず目を逸らした。

だって、後先を考えずにあんなことをしたのにこの体たらくだ。ここで拳骨とお説教を受けても文句は言えない。

 

・・・まぁ、実際は結構な数の敵をぶっ飛ばしまくっていたのだが、少女はそのことに気が付いていなかった。

 

自分の情けなさにちょっと涙が出てきそうになるのを必死に堪えて、ビクビクとライトのお仕置きを待つティラに、ライトは言った。

 

「オレが考えてた事を先にするんじゃねぇよ」

「・・・え?」

来るだろうと思っていたものとはまったく違うライトの反応に、ティラは目尻に涙を浮かべたままライトを見上げた。

その先には、ポカンとする少女の顔を見てにやりと笑う青年がいて、そしてライトはティラを地面に下ろしながら、さらりと言った。

「オレもそろそろ暴れようと思ってたんだ」

 

少し、楽しそうな声色。

 

いざ行こうといていた所でお前がいきなり行くんだもんな。なんて苦笑するライトを見て、まだその言葉が頭に浸透していないティラはポカーンと呆けていた。

そしてじわじわと頭の中に言葉が浸み込むこと十数秒。目をぱちくりとさせながら、少女ははっと我に返った。

 

「えっと・・・それは・・・」

「お前にも手伝ってもらうつもりだったんだが、まさか勝手に1人で突撃するとは思わなかったなー。いやぁ一体何をしでかすのかと思って焦った焦った」

「ご・・・ごめんなさい・・・」

「お前の突拍子もない行動にはもー慣れてるから別に気にしないけどな。それに、暴れる場所は変更だ。リインの所へ行くぞ」

ずーんと沈んで謝るティラに、ライトは何ともないと言った様な顔でさらっとそんなことを言った。その一言にティラは驚く。

「え、ええ!?でも、リーちゃんの場所は分からないって。それに・・・」

「リインの場所は今さっき分かった。それにここはもう大丈夫だろ。騎士団の奴らもようやく押し始めたしな。クローディアの奴に任せてきた」

そう言ったライトは、敵勢力の溜まっている方を見て、わずかに目を細めた。

「・・・さて、それで、そこに行くにはこの目の前の敵勢を突破しなきゃいけないんだが・・・」

そこまで言うと一度言葉を区切り、そしてちらりとティラを見た。お互いの視線が自然と合う。

「―――ちょっと手伝ってくれるか?」

その言葉に、暗い顔をしていたティラのぱぁあっ、と明るくなった。

「了解です!どーんと任せちゃってください!」

ライトに頼まれた事が嬉しくて、満面の笑顔で言ったティラに、ライトも小さく笑みを浮かべて頷いた。

「よし、じゃあ、でかい奴を頼むぞ」

「了解です!マキちゃん行くよ!リミッター5解除、サブシステムA・B・D・E起動!」

『OK。リミッター5解除。サブシステムA・B・D・Eに設定します』

ジャコッ!!と杖の先端部分の下に付いている円筒部分の5ヶ所が上部に向かってせり上がり、続いて機械の高速回転するような甲高く短い音が先端部の内部から響き渡った。

杖の先端部が熱を持ち、せり上がった円筒部分の隙間から蒸気が上がる。

 

「おっきいの行くよ!ウォーティランス、チャージ開始!」

『チャージ開始。目標出力までのカウントを開始します』

ティラの呪文に呼応して現れた水の球体。それが杖先でどんどんと肥大化していく。

 

そして当然、それを見た敵も黙ってはいなかった。

「おい!あいつデカイ魔法使うつもりだぞ!?」

「なんだって!?おいおいあいつ何人もぶっ飛ばしておいてまだ足りないっていうのか!?」

「みんな!あの悪魔を止めろぉ!!」

と言うより、なんか皆物凄く必死になってこちらに向かってきた。よっぽど先程の八つ当たりの光景が目に焼き付いているのだろう。

 

「誰が悪魔ですか!失礼な!?」

憤慨するティラに、構わず向かってくる敵勢力。その間にも水球はどんどんとその大きさを増していた。

「プレスコット従騎士団!ティラに敵を行かせるな!全力で止めろ!!」

 

「「「了解した!!」」」

 

ライトの指示に迅速に従った騎士達が、向かってくる敵勢の前に立ちはだかる。

「うわっ!くそ、邪魔をするなお前ら!!」

「黙れ!貴様らのような悪党は成敗してくれる!!」

「た、頼む!今だけは見逃してくれ!あいつを止めさせろ!!」

「ここは通さん!」

 

騎士達の活躍により、敵の勢いが止まった。ティタノマキアのカウントは続き、水球は見る間に大きくなってゆく。

『・・・3・・・2・・・1・・・0。チャージ完了。目標出力に到達しました』

そしてティタノマキアのカウントが終わる頃には、水球は少女の体を完全に覆い隠すほどまでに成長。撃たずにそのまま放り投げても大惨事を引き起こしそうな程の凄まじい威圧感を放っていた。

「ライト!いつでもいいよ!」

「騎士団散開!魔法の射線から離れろ!!」

 

「「「はっ!」」」

 

騎士団がライトの号令で素早くその場から離れたことで、射線が開ける。その先には、大勢の敵が顔を青くして立っていた。

「行け!ティラ!ぶっ放せ!!」

「いっけぇぇぇえええ!!ウォーティランス!!」

 

ズドォンッ!!と先程ティラの撃っていた何倍もの大きさを誇る水の大槍が、轟音と共に物凄い速さで一直線に敵勢力に命中する。

 

『『『うぎゃあああああああああ!!!???』』』

 

そして悲鳴を上げる敵を容赦なく蹴散らしながら、水の大槍はひたすら突き進んだ。

水の槍が通った後には、綺麗な道ができた。

 

「よし、上出来だな」

 

敵陣のど真ん中にできた綺麗な道を見て満足そうに言ったライトは、ふと駆け出そうとした足を止めて、くるりとティラを振り返って聞いた。

「ティラ、どうする?なんならオレに任せてここに残っていてもいいんだぞ?」

「ううん。私はリーちゃんを守るって決めたし、それに始まりが一緒だったんだもの、終わる時も一緒ですよ」

「・・・そうか。そうだな」

ライトはふっと笑うと少女のさらさらとした茶髪をくしゃりと撫でた。

「・・・それじゃあ、オレ達も行くぞ。何もかも奪い返しに」

「はい!!―――・・・ってうひゃあぁぁぁぁぁあああああ!!??」

 

突然ライトに担がれて、ティラは赤面しながら悲鳴を上げた。

「ラ、ライトさん!?な、何を―――!?」

「何って、だからお前セイレーンだろ?マージナル系は足が遅いんだからこっちの方が早い。それにここで転ばれても困るし」

「え、えぇええぇえ~・・・?」

 

妙な心配のされ方に、ちょっと、いやかなり情けない顔になる。

そのままライトは、赤面したままのティラを担いで敵の中に出来た道を突っ切り戦場から離脱。真っ赤っかなティラが降ろしてくださいお願いしますと暴れ出すまで、そのまま目的地へ向かって走り続けた。

 

 

なんかデジャヴ。