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―15―






「…それは?」
ティールの手の中にある少し大きめのガラスビン。
その内側には何かが入っているらしく、ガラスを通して全体が白い光を放っていた。
ティールは何も言わずにクスリと笑うと、そのビンをエミリアのいるベッドへ向かって放り投げた。
「わっ、とと……」
手を滑らせ落としても、その下は布団。 ビンが割れる事は無い。
それでも、反射的にとんできたビンを手で受け止め、軽くバランスを崩して落としそうになった。
「ふぅ……いきなり投げるでない! 危ないではないか」
「ゴメンゴメン。 ……それ貴方達の探し物だよ」
特に反省した様子もなく、笑顔のままそう答えるティール。
……貴方達の探し物―それはつまり、このビンの中身が、二人がこの町に来た最大の理由である『白い鉱石』であるという事を物語っている。
改めて見ると、コルク栓で密閉されたビンの中に、数個の白い光を放つ石が入っていた。
「そうか。 やはり、見つけていたのか」
だが、エミリアは特に驚いた様子もなく、ふっと微笑みを浮かべ、そのビンを手近にあった台の上に置く。
「…なんだ、もっと喜ぶと思ったんだが」
ディンも同じく驚いたような様子はなく、どこかつまらなそうな表情で、そんなエミリアの顔を眺めていた
「……この石、あのゴーレムの身体の一部じゃろ?」
微笑みを崩さず、石に向けていた視線を、再びティールの方へと向け直す。
その発現に対して、ディンは一瞬驚いたようにまゆを動かしたが、それを特に声に出す事はなかった。
「うん。 よく分かったね」
「いや、マスターから話を聞いた時点で予想はついていた。 巣窟で発見されたと言う白い色をしたゴーレム……同時期に発見された白い鉱石……推理するには、これだけで充分過ぎる」
「……エミィ、それなら、なんでいわなかったんだ?」
「予想はついても、確信はなかった。 それに…」
そう言いながらちらりとディンに目を向ける。
さっきのやり取りの事もあって、少しびくっとしたような反応を見せるディン。
しかし、エミリアは構わず言葉を続けていた。
「ディンは『私の目的の物』を意地でも手に入れてやる、という意識が強いようじゃからな」
「……そうだったか?」
「意識しているのか無意識なのかはわからんが……恐らく『私を守る』という範疇に、私の目的の達成というものも入っているのじゃろう」
「……自覚は無さそうだね」
首をひねるディンの姿を見て、ぼそりとティールが一言。
それはエミリアには聞こえていたのか、くすっと軽く笑いがこぼれていた。
「レアハンターは、むしろ私よりディンの方かも知れぬな。 ただ、お主の場合は才能よりも根性と言った方がいいかもしれぬが」
「……そうだったかなぁ……」
「とにかく、言えば危険になっても意地でも倒そうとすると思ったから、言わなかった。 それだけの事じゃ」
さらりとそんな事を言ってのけるエミリアだったが、ディンの方はあまり納得が行かないようで、未だに首をひねって考え込むような体勢にはいっていた。
「そういえばディンも驚いたような様子はなかったが、石の事は先に聞いていたのか?」
「ん? あ、ああ。 聞いたと言うより……使った、と言った方がいいな」
「……使ったじゃと?」
「ああ。 …と言っても俺自身よくわかってないし、ティール、説明してくれないか?」
「わかった」
石を手渡して直ぐ出て行くつもりだったのだろうか、ここにきて始めて椅子に腰掛けるティール。
何度か咳払いをして場の空気を整えると、真剣な表情で、改めて言葉を発し始めた。
「石の事を説明する前に、まずはあのゴーレムの事だけど……本当の名前は『光なる真理(エメト・ルミナス)』」
「…エメト・ルミナス?」
「うん。 昔とある魔術師が作った魔導兵器が暴走してモンスター化したものだよ」
「なるほど、兵器……か」
思い出すのは、『口』から発する大砲のような魔法攻撃。
確かに、あれは兵器と呼ぶにふさわしい破壊力を秘めていた。
「身体を構成しているのは鉄鉱石の集合体だけど、エメトの本質はその核。アレの一部として取り込まれた鉱石は、核の力で聖光系の力を帯びて、全身を構成する一部になる」
「……ヤツの身体からはがれた後じゃが、つまりこの石の正体はただの鉄鉱石で、一時的に聖光系の力を帯びているだけということか」
ビンを手に取り、それを眺めながら一言。
その表情は、どことなく残念そうなものにも見える。
「うん。 『エメトの欠片』って呼ばれてるそれは、持ち主の聖光系の魔法に反応して、一回だけその効果を増幅してくれる」
「……ヤツを倒した後、大きめのやつを何個も使って、俺の聖術でお前を治した……」
「相手が(ルミナス)だったのが、運が良かったよ」
笑うようにしてディンの一言を補足するティール。
その笑顔の中には、聖術の元の効果が弱すぎて、かなりの数を使わなければならなかった、という彼女のみが知っている事実も含まれていた。
「なるほど、それで『使った』か」
「ああ。 ……悪く思うなよ、お前が生きていないと、アイテム手に入れても意味が無いからな……」
「わかっておる。 小さいのが数個程度じゃが、モノは一応手に入った。 別に文句は言わんよ」
手の中のビンを振り、悪戯っぽい笑みを浮かべてカラカラと音を鳴らすエミリア。
ディンは、少し安心したように一息つくと、それに合わせるかのように笑顔を見せた。
「……ところで、今『相手がルミナスだったのが』……と言ったな? まさかとは思うが……」
しかし、そんなどこかほのぼのした空気も束の間で、次の瞬間には真剣な表情をティールに向けるエミリア。
なんとなく肩すかしを食らったような感覚に襲われたディンは、口元を引きつらせてわずかに固まっていた。
「うん。 エメトシリーズって言って『(ブレイズ)』『(アクア)』『(ウィンディ)』『(ガイア)』『(エレクト)』『(ルミナス)』『(ダークネス)』……それと、7種の統合体『究極の真理(グラン・エメト)』の8種作られたって話だよ。 迷惑な魔術師もいるものだよね」
……二人は何も言えず、ただ大したものだ、と思うばかりだった。
モンスターの正体は分かったものの、彼女自身の正体の謎は深まるばかり……
そもそも、なぜいままで発見された事もないようなモンスターの事を知っているのか。
13という歳で、なぜあそこまで死について冷静にいられるのか……聞きたい事は多く残されていたが、逆に多すぎて言葉が出てこない。
「…あ、おい。 どこに行くんだ?」
そうこうしている間に、カバンを手に取り、立ち上がるティール。
「私が言える事はこれで全部だし……特に言うことも無さそうだから、そろそろ行こうかなと思って」
「行くって……」
「約束は、目的の物を見つけるまでだから。 またどこかで会えたら、よろしくね」
それだけ言うと、二人が言葉を返す暇もなく、ティールはさっさと部屋の外へと出て行ってしまう。
……彼女は最後まで笑顔でいたが、二人にはそれは、どことなく『早く立ち去りたい』という雰囲気を感じてとれる動作にも見えていた
「……エミィ、悪い。 ちょっと出てくる」
「……わかった。 私はもう少し寝ているから、心配せずに行け」
「ああ。すまない」
最後にそう答えて、立ち上がるディン。
……だが、その直後に右手に抵抗を感じ、目を向けてみると、エミリアが両手で手首をぎゅっと握っていた。
「……頭でも、打ったのかも知れぬな……」
「なんだよ…………っ!!?」
謎の言葉を発したエミリアに、何かを言おうかとしたその瞬間だった。
……頬に、なにかが軽く触れたような感覚を覚えた。
「…………へ?」
「約束……私もムリはしない、だからディンもムチャはするな………その、印じゃ」 
「……え、エミィ………え……と……うぉあ!!?」
何か言おうと口を開いたディンだったが、その言葉がまったく出てこず、ぐるぐると渦巻く思考の海に入りこみかけていたその瞬間、手元に立てかけてあった杖で思いっきりどつかれた。
「さっさと行け!! 私は寝る!!」
そしてそのままばふりと布団を被って、微動だにしなくなってしまうエミリア。
ディンはなんとなくぼーっとしたような目のまま、扉から外へ出て行くだけだった。






「…………わ、私のバカ……」

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