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 風をもとめて —フローナ〜ルナータ—


 〈ミャア ミュウ……〉
「そんじゃボクたち、行ってくるよ。父ちゃん、母ちゃん!
漁に出てる兄ちゃんたちにも、よろしく伝えてね☆」
「おぅ! ジュリアもしくじるンじゃねェぞ!」
「カネモリさん、ウチの娘をよろしくお願いするよ。」
「…いいえ。
わたくしの方がジュリア…さんに護衛をお願いしているのですから。
こちらこそ、よろしくお願い致します。」
大陸南部の港町・フローナ。
ここは大陸北部の港町・ルナータに通じている定期旅客船の発着場。
その桟橋に見送りに来た漁師の夫婦に手短に挨拶するは、
黒髪の中年男・錬金術師(アルケミスト)カネモリと
栗色の髪の若き女剣士にして夫婦の娘・支援士(ヘルパー)ジュリア。

 ふたりの出会いは数週間前。
「あらゆる病と傷を癒す」と伝えられる究極の薬・エリクシールを合成するために
「風の元素」を必要としているリエステールの錬金術師カネモリが、それを世界中の
ダンジョンへと探しに出掛ける決意を固めたとき、彼の護衛依頼を請けたのが
ブレイブマスターのジュリアだったのだ。
 ふたりは様々な鉱石の採れるモレク鉱山、そして愚王の研究成果が封印された
砂上墓所といった大陸南部のダンジョンを探索したものの、結局求める「風の元素」は
得られなかったのでひとまず数日の休養と補給のためリエステールに帰還し、今度は
グランドブレイカーによって隔てられた大陸北部の探索に出掛けることにしたのである。

 「…ところでカネモリさんにジュリアよぉ。
北で探し物すんのに、心当たりとかはあンのかい?」
大陸北部に向かう船が出る前夜、大陸南部の港町・フローナ。
一行はジュリアの実家・漁師のアマティ家に滞在していた。
彼女の依頼主をもてなすは両親のジョルジォとアリチア、二人の兄・マリオとルイジに、
弟のジュリオ。
「ジョルジォさん…。
北の都・リックテールには、わたくしが師事したアルケミストの師匠が住んでいます。
師匠ならば、何か手掛かりとなる事をご存じかもしれません。」
「それに、南(こっち)にモレク鉱山があるように、北(あっち)にはセリス鉱脈があって、
宝石みたいなモノはあっちの方が豊富なンだって、父ちゃん。」
「そっか…。
まぁ、お宝探しはたいへんかも知れんが、せめて今夜だけは家族団欒の中で寛いでッて
下さいよ、カネモリさん!」

 ………………………………………………。
 ……………………………。
 ………………。
「……モリ、カネモリ!」
「!」
〈ザーッ ザザーッッ……〉
女支援士の掛ける声と船の立てる波飛沫の音が、十六夜男の意識を昨晩の宴から
北に向かう客船の船縁へと引き戻す。
「どしたの、ボンヤリしてたよ?」
「…ジュリアは羨ましいですね、暖かな家族が近くにいることが。」
「そ…そうかな? でもカネモリにだって…」
「わたくしが故郷の十六夜を離れたのは、もう25年も前のことです。
…それ以来、家族とは一度たりとも顔を合わせてはいませんよ…。」
「……………………。」
「…さぁ、船旅はまだ長いのです。
船室でゆっくり過ごしませんか?」
「…う、うん。」
〈トサッ…〉
『キャアァーーッ!!』
 ふたりが船室への入口に向かって歩き出した直後、彼らの背後で女性たちの悲鳴が
響き渡ったではないか!?
「カネモリ、人が倒れてるよッ! …胸から血…、流して★」
「何ですって!?
ジュリア、手当てに向かいますよ!」

 〈ザワザワザワ…〉
「…何ですの、あなた方はッ?」
「わたくしは錬金術師です。お連れの方のお怪我、診させていただきますよ。」
「ボクは彼の護衛してる支援士だから、怪しい者じゃないよ。…心配しないでね。」
カネモリは手持ちの木箱から診察道具を手早く取り出し、倒れている男性の胸部を覗き込む。
しかし…
「………………。」
男性の胸には心臓にまで達した鋭い刺傷があり、流れ出した血液の量は彼の生命を奪い去るに
十分過ぎるほどであった…。
「…うぅっ……、うわぁぁーーッッ!!!」
黒服の錬金術師が伏し目がちに首を横に振りつつ道具をゆっくりと仕舞い込む側で、
犠牲者に近しきらしい女性は人目もはばからず泣き崩れた。