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3:-Wish-

「えっと熱は……」
「無いから」

先程の一言から数秒
いきなり何を言い出すのかとキョトンとしていたリオナのその表情に気がつき、ティールは改めて自分が今置かれている状況を話した。
すなわち、『一生に一度のチャンス』というものについてということになるのだが。
やはりと言うべきか、普通に聞けば夢物語のような話ということだろう。
「ふーむ、どんな願い事でも、ねぇ……」
まあ冗談言ってる目じゃないか……
とボソボソ小声で口にしているところを察するに、ひとまず信用はしてくれたと考えていいかもしれない。
しかし今しがた異世界から飛ばされてきた相手にリレーが回ると言うのも変な話ではある気がする。
「……それとも、私が願ったから……?」
小さく、ポツリとそう呟く。
ナビである間は、対象者以外に“会う”ことはできない。
ではすぐにでも会いたいという願い事なら……
等と考えていても、現実にこうなっているのだから仕方がない。
ティールは一生に一度のチャンスについて説明された本をリオナに渡し、ペラペラと流し読む姿を見て待つことにした。


「へー、お試しなんてあるんだ?」
「あ、うん。信用できないならとりあえず試してみる?」
というか、一番手っ取り早い説明がそれだということを失念していた。
百聞は一見にしかずとはよく言ったものである。
「そーねぇ……じゃあ、にゅふふふ……」
「うっ……なんか嫌な予感が」
予感も何も、こういう笑顔を見せてこちらにとっていいことがあったためしがない。
経験則というか、もはや本能的に察知してしまうほどに見た、イタズラっぽい『嫌な笑顔』
しかしとりあえず願い事を受けなければ何も進展がないので、その予感と悪寒をグッとこらえて、ティールはリオナにその額を差し出した。
「額同士を近づけて、願い事を念じてくれればいい」
「おーけーおーけー。そんじゃ、ちょっと失礼して」
ずいぶんと長い時間、離れていた気がするその人。
もう会えないと思っていた人に会えた。
それを思うと、近づいてくるその顔に妙な感覚も覚えたりして。
……はりついてくるのはいつものことなのに。
リオナには抱きぐせがあるというか、何かにつけてティールは抱きつかれていた記憶がある。
それがうっとおしいと思いつつどこか嬉しかったりして、そんな以前の事が懐かしくなったり……
「ティール、ちょっと苦しいかなぁ」
「……え?」
ふと我にかえると、目に映るのは見上げる位置にあるリオナの顔。
そして全身で感じる、ぴったりと抱きつくように触れ合う身体。
二人の間に隙間一つないくらいの、あからさまなハグ。
「……何、願った……?」
しかし問題はそこではない。
それをしているのが、リオナではなく自分の方だということが、何よりの疑問だった。
「あたしの思った通りになるティール?」
とりあえず、思考するよりも先にぶん殴っていた。





その後の展開は、もう完全にオモチャにされていたとしか言えない状態だった。
普段じゃ絶対に着そうにない服を着せられたり、認識されないとわかっていても恥ずかしくて実行できないようなこともいくつかあった気がする。
年齢指定がかかるような話ではなく、子供のように親に甘えたりするような意味で。
……注釈として言っておくと、『お試し』だからこそ許される願い事の内容があるらしい。
例えば、自分とナビ以外の全ての人間を消す、等。
世界を破常させるためそのまま本願いにすることは出来ないが、チャンスの効果を理解させるには確実な願い。
願ったこと自体がなかったことになるからこそ、というものがある。
ティールは、この願い事はそれに該当しているものであることを、願うばかりだった




「そんじゃ、ベッドで横になっちゃってー」
宿の一室。
言われた通りに動くというか、言われた通りに動くしかないという状態。
相手がリオナだから、まだ受け入れられるのかもしれないのだが……
「……で?」
ベッドの上で大の字に寝転び、顔だけリオナの方に向けて次を促す。
こうなったらヤケである。気がすむまで付き合うしかないのなら、付き合おう。
「にゅふふ、あたしの言葉一つで抵抗できないなら、ベッドで襲っちゃっても?」
「いや、ちょっ!?」
言いながらすでに自分もベッドの上に乗ろうとしている。
どこまで本気で言っているのかわからない相手だけに、その笑顔が余計に怖い。
――ほぼ無意識的に目を閉じたその時だった。
あたたかくて柔らかいものが触れる感触。
……おでこに。
「ご苦労様。お試しはおしまいでいいよ」
「……へ?」
目をあけて、身体を動かす。
ここまでずっと付きまとっていた違和感が消えている。
願い事をした本人がもういいと口にしたことで、願い事自体の力が消えたということだろう。
「ごめんね、あたしだけで」
「え?」
ベッドの端に改めて腰掛けるリオナ。
顔はティールの方を向いていないが、なんとなくどんな顔をしているのかはわかる気がした。
「わかるよ、ティールがなんて願ったのか。あたしがこの場所にいるのが証拠」
「…………」
ティールが一生に一度のチャンスで願ったこと。
それは、『またあの人達と生きていきたい』

かつて異世界のある町で、一つのギルドにティールはいた。
かけがえのない仲間たち。
それは親のいない自分にとっては、家族も同然だった。
そんな皆と、また会いたいと……また一緒に暮らしたいと願った。
「……あの戦いの中で生き残ったのも、戦争が終わっても物資は少なく治安も荒れて、
世界が安定する頃に生き残ってた『ブレイカーズ・ギルド』のメンバーはあたしだけ」
死んだ人間と会う事は叶わない。
この『一生に一度のチャンス』がどんなに無茶な願い事を叶えられるものだとしても、生死の理を覆す事はできない。
「アストのようなリーダーシップは無い、エリーのように気使いはできない。
ゼフィみたいな知識はない、ノリスのように視野も広くない……」
また皆と会いたいという願いで、現れたのは一人だけ……それが意味するのは――
リオナの言葉通り、彼女以外は既に生きてはいない、という事だ。
「英雄アスト・ライオスと、その四天王――その中でも一番頼りなくて、子供なあたしだけが残った。
なんか……皆にも悪い気がするよ、こうしてあたしだけがティールと顔を合わせられた事も」
アハハ、と軽く笑うような表情で語るリオナ。
しかし口から出てくる声は、どんなに平静を装っていたものだとしても、その中にある『重さ』とでも言うべきものは隠しきれていないようだった。
ブレイカーズ・ギルドの四天王が一人、北風のリオナ。
子供のように素直で一直線、自分に正直なムードメーカーにしてトラブルメーカー。
人に好かれる性質ではあっても、頼られる人間というには少し難がある。
そんなキャラクターをしているのは、自他共に認めるところなのだが……
「……そんなこと無い……」
紡ぐ言葉は、考えるまでもない。
「皆が死んだのは、確かに悲しいよ。 でも、それを受け入れられないほど私はもう子供じゃない」
むしろ、あの地獄のような戦場で、誰か一人でも生き残っていてくれた事が嬉しかった。
死んでいったとしても、それがただ無駄になる事無く、戦争が終わったのを知れた事が、有難かった。
「だから、誰がよかったなんて言わないし、言えるわけないよ」
「ティール……」
「ああでも、襲われるのは勘弁だけど」
「あはは、それはその場のノリだから何とも言えないなぁ」
相変わらずめげない人だ。
嫌味のつもりの一言だったのだが、全く堪えていないのはむしろさすがと言うべきだろうか。