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 いつからこの剣は、赤黒く染まってしまったのだろうか



「ひっ…!ひっ…!!」

 男は走る。何故自分がこんな目に逢うのかと呪いながら。
 ザリ。ザリ。と、粗い土を蹴る音がやけに響く。

「なんだよ。なんなんだよ…! う、うわっ!!」

 男は振り返りながら走り、追跡者からの距離を確認した。
 だが、それが命取りになった。
 くぼみに足を取られ、もつれ転ぶ。

 追跡者は、すぐに男に追いついた。

「何だよ…! オレが何をしたっていうんだよ!!」
「…貴様の胸に聞いてみるが良い」

 黒い髪の追跡者は、北方の業物『片刃剣』を手に、男に詰め寄る

「強盗殺人の話しか…!! それなら、服役してナイト共から正式に出所を貰った!! オレは罪を償ったんだ!!」

 そう。男は数年前に、女性の家に強盗目的で進入し、殺害をした過去を持っていた。
 だが、その事件は教会のジャッジメントの手により処罰が言い渡され、
 ナイトの管理のもと、刑務所に服役。刑期を終えて出所して数週間。といった所だった。

「あの女の知り合いなのか…! 仇討ちというワケなのか!!」
「違うな」

 追跡者は静かに答える。
 その答えが聞こえたかどうかは判らない。だが、

「いくら罪を償おうが、黒は白になる事は出来ん。罪人は死を持って償え。下郎」

 チンッ。という鉄の擦れる音。鞘に片刃剣が仕舞われると同時に、
 男の首は、地面に落ちていた。





十数年前

十六夜。竜泉家 道場



『お前と打ち合うのも今日で最後か』

 刃落としした模造刀を構え、爽やかな雰囲気を持たせた男は言った。
 対し、飄々とした男は、同じ模造刀を構え、言い返した。

『7352戦3673勝3673敗6引分け。今日で決着をつけないとな』

 その飄々とした男の言葉に、爽やかな雰囲気の男は呆れたようにため息をついた。

『お前・・・どれだけ数えているんだ。相変わらずマメなやつだな。紅蓮』
『ははっ。でも、こうやって手記に記録を残すのも今日で最後か。本当に残念だよ。空也』

 爽やかな雰囲気の男の名は空也。対し、飄々とした男の名は紅蓮
 お互い呼び合い、試合開始のための位置につく。

『馬鹿いうな。シュヴァルくらい近い。いつでも戻って来い』
『ああ、そうだな。その時は竜泉道場の看板破りとして勝って、次期主君が完敗したって結果を出してやる』
『逆だ逆。返り討ちで私が圧勝してくれる』

 言葉では簡単に言っていたが、お互いそう簡単に会える事は無いだろうと。心のどこかでは思っていた
 紅蓮は、この十六夜の地を離れ、農業の栄えているシュヴァルという街に出る。
 支援士をしていた紅蓮の父が、出先で不慮の事故により死亡。
 話に寄れば、強大なモンスターが現れた時、仲間を逃がす為に犠牲になった。誇り高い最期だったという。

 だが、武士としていかに誇り高き死を全うしたとして、残された者の現実はそう格好良くは無い。
 仕送られた収入は無くなり、母子で働くには、この十六夜の地は厳しすぎた。
 そうした場合、大体は他の土地に向かい、女性の手でも働けるところで細々と暮らす事になっていた。

 紅蓮もまた、その例に漏れぬ者であった。


 戦いが始まり、互いに一足一刀の間合いに踏み込んだ刹那、
 最上段。紅蓮の荒々しい刃が空也に振り下ろされる。
 一方で、空也はそれを受け、力の向きを流し、動線をそらす。
 紅蓮が力とするなら、空也は技だろうか。
 だが、お互い引け劣らない互角の試合が繰り広げられる。

『なあ空也。聞きたいことがあったんだ』
『喋りながら剣を振るな。・・・全く、何だ』

 剣を交え、刀がぶつかる音が響く中、
 息を乱しながらも、紅蓮は空也に尋ねた。

『お前はどうして剣を学んでいるんだ? やはり、竜泉の息子としての義務か?』

 何故こんな事を聞いたのか。紅蓮は自分でも判らなかったが
 十六夜の男児として、武士への憧れももちろんあった。
 だが、無情にも死した父の最期を思えば、剣とは何なのだろうか。
 強さとは? 力とは? その意味は?
 紅蓮には、迷いがあった。

『そんなの、決まっているだろう』

 空也が紅蓮の虚を突き、一手、二手と連撃を与え、紅蓮に詰める。

『私は、全力を持って護りたいんだ。蛍や八雲。道場の皆。それに紅蓮、お前もだ』
『その為に、私は今以上に強くなって、守れるだけの力を手に入れたいんだ』

 そして、空也の深い踏み込みの後、力強い打ち込み。
 紅蓮はかろうじて刀で受け止めたが、吹き飛ばされてしまった。

『ふぅ・・・。紅蓮、私の勝ち越しだな・・・!』
『ふふ・・・ははは。空也、やっぱりお前は思ったとおりのヤツだな』

 汗を拭い、紅蓮は友の言葉に笑った。
 空也は変わらず、己の強さを持っていた。そこに、曇りや迷いも無く。
 幼少の頃から、自分と同じ目標を持っていた。
 誰かを護れる強さ。それこそが紅蓮と空也の目標であり、求める強さだった。

 それは、仲間を護る為に死した父も、同様の誇り高い剣だったのだ。

『オレもそうだ。母さんや十六夜の皆を護ってやりたい。父さんのような立派な支援士になってやる!』
『なれるさ、紅蓮。 次は勝ち越しに来いよ。いつでも相手になってやる』



 だが、それから別れは早かった。
 淡々と日は経ち、馬車に乗り紅蓮は母と共に、シュヴァルに向かった。



『紅蓮…』

 見送りの際、空也は幼馴染のホタルと共に、紅蓮の前に立った。

『ん』

 紅蓮は空也に拳を突き出し、それを見た空也は、にっと笑って、
 拳をぶつけてきた。

 紅蓮の母は、馬車から紅蓮を呼ぶ。もう、出発と別れはそこだった。
 紅蓮は馬車に乗り。馬車が走り出す。

 紅蓮は、馬車から身を乗り出し、手を振って叫んだ

『空也! 次は2連勝で勝ち越してやるからな! 待ってろよな!』
『もちろんだ! 1年や2年なんて当然待ってやる! 十年後でも待ってやる! だから、お互い強くなろう! 紅蓮!』

 馬車が見えなくなるまで見送り、
 そして、ホタルは空也につぶやいた。

『いってしまいましたね』
『ああ。  ホタル。紅蓮が帰ってきたら、また私達の試合を見ててくれ』
『はい。もちろんです』
『ははっ。 そのためには、アイツに恥ずかしい実力じゃ居られないな。帰ったらもう少し鍛錬するとしようか!』
『ふふ! 空也さん。後で差し入れをお持ちしますね』



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