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「あんなに全力で投げなくてもいいじゃねーか…」
「ふんっ。ライルが目を覚まさないのが悪いんだもん。おかげで目が覚めたでしょ」

 朝食…いや、確かに起き立てだが昼になると言ってたか。
 朝昼飯? ブランチというシャレた言い方もあったっけ。
 とりあえず、朝食ということにしておこう。パンとスープ。どちらも美味しく仕上がっている。

「なんでそんなに寝てられるのかな…」

 目の前に座っているミュールは、両肘をテーブルにつけて、両手で頬に手を当てて起きながら、ふぅ…とため息をついた。
 この様子では、余計なことを言うと説教コースかもしれない。

「もう、待っててあげるから、すぐに食べちゃってよね」
「りょーかい」

 そんな言葉に、オレは短く答え、朝食を食べ始める。

  *

 ここは大陸南部、リエステールよりさらに南西にある水の都ミナル。
 この世界は遥か昔、大陸のど真ん中に『グランドブレイカー』という超巨大な大地の割れ目が出来て、大陸は大きく、北部と南部に分かれてしまった。
 『グランドブレイカー』により、その中心にあった巨大首都が地中深くに沈んでしまったという話がある。これがおとぎ話なのか、真実の歴史なのかはわからない。だが、一般的にはそう言われていた。
 その中央都市がどれだけ巨大だったのかはわからない。だが、その名残なのか、北部の首都『リックテール』を北部の中心。そして、南部の首都『リエステール』を南部の中心にして、
 南部ではリエステールから西の山の中にある鉱山の町『モレク』。南西に位置する水の都『ミナル』。それよりはるか南、砂漠の中にある町『サンドヴィレッジ』などの町がある。
 また、北部ではリックテールを中心にして、北東にある宝商の街『セリス』。北西にある木漏れ日溢るる森林の街『シュヴァル』。さらに北に行けば、王政に縛られず独自の文化・文明を作り、永くその地を守ってきた武人や剣士の雪国『十六夜(いざよい)』などの町がある。
 で、現状では南北を繋ぐのはリエステール・リックテールの東にある港町、南部の『フローナ』と北部の『ルナータ』から、船を使って行き来している。
 その方法が時間がとても掛かるため、南北を行き来する際は出来る限りやり忘れた事が無いかを確認してから行くことが多かった。 

 多くの人はグランドブレイカーの歴史に関係なく、今この時を生きている。
 オレ、ライル=セリオールも、Cランク支援士…双剣を使う『セイクリッド』として生活をしている。
 そして、目の前に居るのが、ミュール=フィナンシエ。同じくCランク支援士のネクロマンサである。

 支援士と言うのは、平たく言ってしまえば便利屋さんの事だ。
 仕事は主に、魔物退治や護衛などだが、便利屋さんという印象が強く、店番や掃除など、「自分でやれよ!」というような仕事が多く入るようになって来ていた。
 そういった仕事は、酒場に預けられ、依頼という形で仲介されるシステムが一般的である。
 他にも、酒場に預けるのが確実ではあるのだが、ツテがあれば、酒場を介することなく依頼主本人から依頼される場合だってある。
 ただし、酒場は支援士の力量に合わせて『ランク』を付け、そのランクに合わせた仕事を紹介してくれる。
 例えば、戦闘経験もロクに無いような支援士が、いきなり上級の魔物を倒せ。などという無理を言う事はまず無い。
 その安定感からか、仕事をこなすならばそちらの方が確実である為、酒場から依頼を受けるのが一般的だった。

 この世界には、様々なダンジョンがあったり、異次元空間に行けたりと、ブラックボックスな場所がとても多い。
 だけども、そこはブラックボックスと言われるだけあって、危険であると同時に、謎やお宝が多く存在している。
 十数年前ダンジョンに挑み、珍しい短剣を持ち帰った支援士が、とんでもない金額の稼ぎを得た。と言うのはとても有名な話である。
 で、そのダンジョンに挑み、宝や、謎を追及する者を、『冒険者』と呼んでいるのだが、
 世知辛い話だが、ダンジョンに潜るのにも、戦闘経験や資金が必要になる。
 そこで、魔物退治や護衛などの冒険者と仕事が似ている支援士を兼業する人物が、とても多いのだ。

 また、個々人の事情によってはダンジョンに潜る冒険はあまりせず、支援士のみを行う人も居た。
 それは、支援士がピンチを救う話や、ヒーローの様に魔物の脅威からみんなを守る存在に、憧れを抱いたからである。
 例えばさっき話した、十数年前に珍しい短剣を持ち帰った支援士も、有名なヒーローだろう。彼は、その短剣を売って得た莫大なお金をすべて教会へ、孤児が何不自由ないようにと、寄付をしたのだ。
 そんな中、オレ達も冒険はあまりせず支援士をメインでやっているタイプだ。

 そして、冒険者や支援士は、人によってその戦闘をするスタイルが大きく変わる。
 例えば大きく分けて、剣を持って戦うタイプも居れば、魔法を使って戦うタイプ。物を作るのが得意で、アイテムを使って戦うタイプなどが居る。
 その中で、オレのセイクリッドと呼ばれるタイプは、二刀流やナックルを使っての戦闘スタイルがメインの通称だ。その中で、オレは二刀流を使っている。
 戦闘では、挑発をして敵の気を引いたり、二刀流による物理攻撃で敵を倒す役割が大きい。だが、一方で装備の関係上防御が薄く、魔法による攻撃や重い一撃を貰ってはまず無事でいられないだろう。
 一方でミュールは、オレの物理戦闘をするタイプではなく、魔法―――それも、闇魔法をメインで使い戦うネクロマンサというタイプのスタイルを取っている。
 ネクロマンサというと『死霊使い』という意味があり、ネクロマンサは使い魔を使役する力を持っているのだが、闇魔法を主に使う人物も含めて、ネクロマンサと呼ばれている。
 ミュールはまだ使役する使い魔を持っていないが、闇魔法を駆使して敵を倒す役割を大きく持っていた。いわゆるメイン火力。というところだろう。

 他にも、剣技を主に華麗な戦いをする『ブレイブマスター』。重圧で巨大な斧を振り回し万力の力で叩き潰す『ベルセルク』
 聖女アルティアを信仰するアルティア教会に属し、聖なる力で人々を癒す男性『ビショップ』、女性『カーディアルト』。
 ミュールの闇の力に対し、炎や氷などの力を使う『マージナル』。
 二次元の戦闘になりやすい近接タイプに対して、上空高く飛び上り、空中から三次元の攻撃を得意とする『エアレイド』
 アイテムを作成し、それを駆使して戦う『クリエイター』。
 これはほんの一部だが、そういったスタイルの人々が支援士や冒険者をしたりしている。

 と、パンをスープで流し込んだところで、不意にドアが開く音がしたので、そっちに視線を向けた。

「あら~。ライル君。起きてらっしゃったんですね。ミューちゃんも、おはようございます。ですわね」
「おう。エリス、おはよう」
「おはよう。エリスお姉ちゃん」
「はい♪ 二人とも、おはようございます~」

 そこに来たのは、エリス=スターチス。このギルド『HevenlyTears』の持ち主で、Bランク支援士のドミニオン。槍使いである。

 オレとミュール、そしてエリスとで『支援士ギルド』を組んで活動している。
 ギルドとは、拠点を持って活動をする集まりで、言うなれば「同じギルドだから仲間ですよ」という表れのようなものだと思う。
 また、『支援士ギルド』と主張する事で、先にも言ったように、酒場を介さずギルドに直接依頼を申し込んでくれる事も…少ないが、ある。
 ギルドと言うと数十人所属するような印象があるが…三人。という人数は少ないかもしれないが、それでも、それは言ったもの勝ちというものだ。
 ミナルは近頃とても平和で、だいたい簡単な魔物討伐だの店の手伝いだのばかりなので、そうそう激しい事件があるわけでもなく、
 月に3~4度はリエステールに仕事を求めて出張のようなこともすることもあった。

 エリスは、腰まである銀髪。翡翠色の瞳。それに、白銀のアーマーを装備していることから、巷では、『純白の鈴蘭』と呼ばれている。
 『ドミニオン』と言うのは、『セイクリッド』や『ネクロマンサ』と同じく、戦闘スタイルの通称で、『素早く動けるし、守りも出来る』というタイプである。
 良く言えば『万能タイプ』なのだが、悪く言えば『専門職に劣るどっちつかずの器用貧乏』というところか。
 防具はライトアーマーを装備していながら、その上アーマーを着ながらも素早く動く事を戦闘スタイルとしている。
 ドミニオンの魅力はアーマーが戦闘スタイルを邪魔しない。という点で、
 アーマーを着てしまって行動力が鈍ってしまうと、存分に生かすことのできない『セイクリッド』や『ブレイブマスター』に比べて、重めな装備をすることが出来る分、攻撃を受けても耐久出来るというところだ。
 もちろん、逆に言えば単純に手数や素早さで言えば、セイクリッドやブレイブマスターには劣ってしまうのだが。

 で、そんな近接タイプのスタイルからは想像できないだろうが、エリスは細目でいつも眠そうに見えたり、ニコニコしているように見える外見。
 そして、物腰がやわらかい、性格もやわらかい、表情もやわらかい
 なにより、

「(じー…)」
「? ライル君、どうしましたか?」

 たゆん。と、その圧倒的存在感を主張するように、一つソレが揺れる。
 そう!!
 おっぱいが!!
 けしからんやわらかいのだ!!!
 戦闘中では、常にその圧倒的な双峰がたゆたゆ揺れる様に、多くの男が虜になってしまっている。

「(じっ…)」
「…?」

 ぺたーん…
 その一方で、エリスの胸ばかり見ては同じ女のミュールの胸をシカトするのは可哀想だと思って目を向けるが。
 エリスとミュールのおっぱいを見比べて…うん。可哀想に。同じ女でもここまで差が出て見せつけられるとは、オレは憐れむように一つため息を心の中でついた。

「―――っ!!」
「あだぁ!!」

 足に痛みを感じ、思わず声を上げる。
 この踏みつけにきた足は間違いなくミュールだ。
 こいつ、やはりエスパーなのか!

「ライル君。急にどうしましたの?」
「い、いや…」

 オレの急な悲鳴に、エリスは眉をひそめて心配するが、痛さに「あはは…」と、ひきつった笑いを浮かべてしまう。
 そんなエリスに、「大丈夫」だと告げるのに対して逆にミュールのことを睨み付けたが、既にヤツは、口元を「ばか」と言うように動かしてから、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

 このギルドは元々エリスの家であり、その持ち主である彼女の両親が、『ビショップ』と『カーディアルト』なのだ。
 で、ミナル勤めで家を購入したは良いものの、ほんの数年でリエステール教会に勤めることになってしまってから、エリスは家を管理する代わりに自由に使わせてほしい。
 という事で、両親から任されているのだ。
 少々のんびりしたところがあるが、しっかりしているエリスに、彼女の両親もそれを了解して、幼馴染のオレとミュールを誘ってギルドにしている。という感じである。

「全くもう。ライルがもう少しエリスお姉ちゃんを見習ってしっかりしてくれれば私もこんなに苦労はしないのにな」
「まあまあ、ミューちゃんケンカですの? そういえば、ついつい怒ってしまうのであれば、ミルクを飲むと良いらしいですのよ」

 ニコニコ。

「いや…そういうんじゃなくてね。 …だめだ、お姉ちゃんのこの天然部分がライルに移ったら手に負えないわね…」
「エリスのミルク…ごくり」
「な、バッ…! 変なこと言ってないでさっさと食べなさい!!」

 むぐ。と顔を赤くしたミュールから、口にパンを押し込まれ、それをモシャモシャと食べる。
 で、視線を泳がせたミュールが、時計を見てはっとしたように手を口元に当てた。

「って、もうこんな時間なの!? あんまりノンビリしてられないわ! 早く依頼見に行かないと!」
「まあまあ。ミューちゃん、ごはんはしっかり食べていかないといけませんわ」
「私はもう食べたの! 食べてないのはライルだけなの!!」
「そうだぞミュール。だからお前の胸は今でも」
「良いからさっさと食べなさい!! いやもう、食べながら来なさい!!」
「お、おい」

 ぐいっと襟首を掴まれ、入口に連れていかれる。
 それをにこやかに見送りながら、エリスは手を振るのだった。

「ライル君。ミューちゃん。気を付けて出かけてくるんですのよ~」
「お姉ちゃんも!! 仕事に来るの!!」
「あら。じゃあ私もアーマーとランスを準備しなくちゃ行けないですわね」
「エリス。先に行ってるから後で来いよー」

 ミナルの朝に いや、昼に、ミュールの声が響き、
 引きずられながらオレはエリスに手を振り返した。
 そんないつも通りのやり取りに、近くにいた船台が、やれやれまたか。という感じに首をすくめたのが目に入ったのだ。