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□ミナル自警団。地下牢

「ゲロローン…捕まっちまったゲロー…」

 イボだらけの男がため息を吐きながら、何度目かの同じセリフを呟く。
 あまりの辛気臭さに、オカマは「いやねぇ」と首を小さく振って、イボだらけの男と、団長の二人に呟いた。

「アタシやアンタは良いかも知れないけど、団長は…」
「くそっ!!」

 ダン!と牢屋の壁を叩き、団長は感情を露わにする。
 もう少しで大金を得ることが出来た。どう考えてもチャンスだった。
 なのに、なぜあんなガキが「止水」を使う事が出来たのか。
 なぜこんな事になってしまったのか。

「オレは…こんな所に居るワケにはいかないというのに…!!」

 団長は感情を暴力という形で牢にぶつけ、ガシャン!と格子を激しく揺らす。
 だが、それも虚しくどうなる事もなかった。
 イボだらけの男と、オカマは黙るしかなかった。

   カツーン。カツーン

「誰か来たみたいよぉ」

 オカマが足音に顔を上げ、言葉にする。
 それに連られて、団長とイボだらけの男も顔を上げた。
 足音は、三人の牢屋の前で止まった。
 そこに立っていたのは……

「きゃぁぁぁぁん!! ジャスティスムーン様ぁぁ!!」

 あの時、この盗賊たちを妨害し、ダノンとスフィリアを助けた人物の中でも、
 圧倒的な存在感でオカマを屈し、オカマの心を正しい方向へ導いたジャスティスムーン。彼だった。
 オカマは、ジャスティスムーンの登場に、黄色い(?)声を上げた。

「……」
「何をしに来たでゲロ! 嘲笑いに来たゲロか!!」

 黙って三人を見つめるジャスティスムーンに、イボだらけの男はそっぽを向いて牙を剥いた。
 ジャスティスムーンはそんな挑発に何を言うでもなく、淡々と話し始めた。

「それなりに反省もしたようだな……お前たちに会わせたい人物が居て、連れてきたのだ」

 ジャスティスムーンは、通路に向かって「来なさい」と言い、
 そして、ジャスティスムーンの言葉に従って誰かが歩いてきた。
 その目の前に居た人物に、団長と呼ばれた男は格子に慌てて近づいた。

「キャミィ!!」
「お兄……ちゃん」

 キャミィと呼ばれた少女が、ショックを隠せないような顔で、兄と呼んだ団長を見つめた。
 団長は、すぐにジャスティスムーンを睨み付けて、吼える。

「貴様ぁ!! キャミィにオレのこんな姿を見せて、どういうつもりだ!!」
「……」

 吼える団長の言葉に、ジャスティスムーンは目を閉じて聞く。
 そして、目を開けてじっと団長を見返した時。
 そのあまりに深い視線に、団長はぐっと言葉を詰まらせてしまう。

「く…」
「お前は…今のお前の姿が、恥ずかしいと思うのか」
「なんだと…」
「見られるのが嫌だ。という事は、恥ずかしいという事なのではないのか? ならば、なぜその『恥ずかしい』事をするのだ?」

 ジャスティスムーンの問いかけに、団長は俯いた後、
 小さな声で、絞り出すように答えた。

「キャミィは……病気なんだ…! 調子が悪い日は、数週間も寝込まなければならなくなる…。
 調子が悪い時は、教会の祝福と薬草などでなんとか繋いで居たが……アルケミストの作る本格的な薬さえあれば、キャミィは治るかも知れないと言われた。
 だが、その為には多額の金が必要になるのだ……!!」

 団長は格子を握ったまま崩れ落ち、涙を流して訴える。

「妹が何をしたというのだ…!! ただ生まれつき少し身体が弱かっただけだ…! 虫一つ殺すことが出来ない妹がなぜこんな目に合うんだ…!!
 職を求めても、支援士の仕事をしても金は集まらない!!
 俺が…俺達が貧乏だから救われないのか! 金さえあれば、妹が救えるんだ! 妹を救う為ならば、俺は…!!」

 団長の言葉に、オカマは肩を撫でてジャスティスムーンに言葉を掛ける。

「ジャスティスムーン様…あまり、団長を苛めないであげてくださいまし」
「…ならぬ。貴様、それが盗賊を始め強盗まがいの事を行っていた理由か?」

 崩れる団長にジャスティスムーンは語り掛け、さらに言葉を続けた。

「貴様は、何も見えておらぬのだな」
「何だと……!!」

 ジャスティスムーンは、妹キャミィに向いた。

「オヌシ。兄に言いたいことがあって着いて来たのだろう?」
「はい。あのね、お兄ちゃん…」

 キャミィはしゃがんで、出来る限り兄に近づいて、囁くように語り掛けた。

「お兄ちゃんは、私の為に頑張ってくれたんだね…でもね。私、他の人が悲しい思いをしてまで治りたくなんかないよ……!」
「キャミィ…」
「四つ葉のクローバーのお話って知ってる? 四つ葉のクローバーは幸運を運んでくれるけど、他の三つ葉のクローバーを踏み潰して探す幸運の四つ葉のクローバーは、偽物の幸せなんだよ。
 私は、偽物の幸せなんて嫌だよ…!」
「すまない…!すまない………!!」

 キャミィは手を伸ばして、団長を抱きしめる。
 格子越しだが、兄妹は抱き合い、涙を流した。
 それを見たジャスティスムーンも、目じりを光らせ、ハンカチで目元をぬぐった。

「私、お兄ちゃんが出てくるの待ってる。 だから、また一緒に頑張ろう? 私も、身体が弱いのに甘えないでお金稼ぐから…!」
「だけど、お前…身体が!!」
「そ、そうでゲロ!! お嬢! そもそも、団長が出れるまでどうするつもりゲロ!!」

 気色ばむ盗賊三人に、ジャスティスムーンは団長の目の前に屈みこみ、懐から袋を取り出した。
 疑問顔をした団長は差し出されたそれを受け取ると、

「う、うお!?」

 あまりの重さに、声を上げた。
 その袋の中には…大量のフィズ。10万や20万どころではない、おそらく100万フィズはあるだろう。

「ヌシらに預かり物だ。物好きな商人が居るものでな…お前たちに渡してほしいと」
「お、俺達に…?」
「くれるでゲロ!!?」

 イボだらけの男が歓喜の声を上げる。
 だが、その声にジャスティスムーンは厳しく言い放った。

「戯け者!! それは、オヌシ達に『貸し』ておくものだ……10年掛かっても20年掛かっても構わん。必ず返しに来る事。それを約束するのだ。
 もちろん、盗賊などという莫迦な真似は二度とするでないぞ」

 「それと…」ジャスティスムーンは追加し、一つのビンを取り出した。
 それを見て、団長は目を見開いた。

「そ、その薬は……!!」
「我が輩の知り合いのアルケミストの作った薬だ。彼女が言うには、そう値の張る薬では無いそうだ…。
 妹君には、その工房へ案内しておこう」

 ジャスティスムーンの言葉に、団長は「くぅぅ…!!」と再び涙を流し、頭を垂れる。

「ありがとう…!! ありがとうございます!!」
「ふふ…。我が輩はこれにて失礼するとしよう。面会時間はまだ残っておる。しばし、兄妹水入らずで語るがよい」

 そう言って立ち去るジャスティスムーンの背中に、団長は声を掛ける。

「ま、待て!!」
「何用だ…?」
「名前を…!」

 団長の言葉に、ジャスティスムーンはフッと一つ息をつき、答えた。

「ヌハハハハハ…!! 正義の味方は去り際に名前を残さぬモノだ!」

 ジャスティスムーンの笑いにキョトンとした団長は、
 その答えに笑いがこみ上げた。

「フフ。ハハハ! そうじゃない、この金を返す先…物好きな商人の名前を教えて欲しい」
「ぬぅ!」

 団長の言葉に、ジャスティスムーンはガクッと身体をずっこけさせるような動きをした。
 そして、団長の問いに答える。

「ハートゥーン・アルラシード。 全く、本当に物好きな男よ……」

 と、ジャスティスムーンは自分に語り掛けるように、その名前を口にした。
 そのまま、歩き去るジャスティスムーンを見つめて、オカマは

「ああ…ジャスティスムーン様。ス・テ・キ…」

 と、惚れ直すのであった。