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「マスター、時間です。起きてください。」
「あとちょっと…40分。」
「それはちょっととはいいません、起きてくださいマスター。」
「あと90分…。」
「はぁ、マスターあなたって人は一体どれだけ眠れば気が済むのですか?」
「よく考えろ、寝たのは今日の太陽が昇り始めるころだ…あと半日くらい寝かせてくれてもいいんじゃないか」
「はぁ…仕方ありませんね。なんて言うと思いましたか?無駄な抵抗はやめてさっさと起きてください。
さもなければ、水攻めを開始します。5秒前、4、3、2、1、ぜろ」
「ひやああああああああああああああああああああああああああああ!?」

カウントダウン終了直後、彼女は毛布にくるまったままの主の頭上からバケツをひっくり返し冷水を浴びせた。
屋外の気温から比べれば室温のほうが高いとはいえ、季節は冬。
窓の外では雪が舞い、冷たい風が吹いている。
ろくな暖房もないただでさえ冷え切った室内は吐く息が白くなることはないが、それでも寒いものは寒い。
さながら冬眠中の動物のように毛布をひっかぶっていた眠っていた彼女の主は浴びせられた水によって体温を一気に持って行かれ強制的に目を覚まさせられた。


「ば、ば、バカかお前!!ふ、ふざっふざけんなぁ!!」
「ふざけた覚えはありませんが。」
「この寒い時に、水ぶっかける奴があるか!な、何考えてんだよ!」
「そういわれましても、私はマスターの『なにがなんでも、どんな手を使ってでも叩き起こせ』という命令に従ったまでです。
命令通り物理で“叩き”起こすことも考えましたが、力の加減を誤ると取り返しのつかないことになりかねませんでしたのでてっとり早く水をかけることにしました。
いままで試した方法の中で最速の起こし方です。私としてはこの方法を正式に取り入れたいと思っているのですが、どうでしょう?」
「心臓に悪いからやめろ。ショック死させる気か。」

何この子、信じられない。と呟きつつぶるぶると震えながら着替えを済ませたマスターは、不機嫌ですといわんばかりの表情を一層不機嫌そうにしてこちらを睨む。

「そういえばマスター、いつも不機嫌ですよね。どうしてですか?」

ふと思うたびしてきた何度目かの質問。
いつも、というほどあまり長い時間をマスターと過ごしたわけではないけれど常時マスターはむっとしている。
寝てる時も眉間にしわを寄せて寝ていることが多い。
から、そのしわを指でぎゅーっと伸ばしてあげるのが最近の楽しみである。無論、マスターには内緒だけれど。

「…生まれつきこういう顔だ。」

いつも通りの答え。
〈生まれつき〉〈元からそういう人間だから。〉聞く度に自分のことなのに他人事のようにそう答える。
いつもは、そうですか。といって終わるのだけれども、それではマスターを理解することはいつまでたってもできない。
答えてもらえないかもと思いつつも、質問を続ける。

「本当に?赤ちゃんの時からそんな不機嫌そうな顔してたんですか?だとしたらどれだけの不満を持ってこの世に生を受けたんですか?」
「生まれて早々に不満を抱くようなことは……。」

なにか思い当たることがあるのか、虚空をわずか数秒見つめたかと思えば再び暖炉に薪を放り投げ

「まぁ生きてれば不満なんて星の数ほど出てくるものだし…。そんな小さい頃のことなんて、覚えてるわけないだろ。」
「では物心ついたころは?」
「『どうしてお前はそんなに不機嫌な顔をしている?一体何が気にくわない?』ってよく言われてた気がする。」
「気にくわないことあったんですか?」
「訳のわからん理由で強制される集団行動。」
「…マスター協調性のない子供だったんですね。」
「否定はしない。けれどそれだけで、別に常時不機嫌という訳じゃない。ただそうみえるだけだ。」

だから、不機嫌そうな顔をしているからと言って不機嫌だと決めつけるな。
長年表情一つで不機嫌だと思われてきたらしいマスターはそういってようやく大きくなり始めた暖炉の火を、不機嫌そうに見える表情で見つめていた。
無愛想で、言葉使いが悪い。
時には無理難題を課してくる意地の悪い、泣きも笑いもしないいつも不機嫌そうに見えるだけの引きこもり。
そんな社会不適合者のダメ人間でも、私のマスターであることには違いないのだ。


「なぁ、いまものすごく失礼なこと思ってなかった?」
「なんのことですか?」