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―7―







―その夜は、レイスの工房には泊まらず、いつも通りに適当な宿の二人部屋をとって、レイスの工房から荷物を運び込んだ。
そもそも、工房に止めて貰ったのは日が落ちてきたので宿も埋まっているかもしれない、という推測の元にした事だったので、宿がとれるならムリに泊まる必要は無い。
……もっとも、レイスはあの服のネタを仕込むために自分達を泊めたと言う可能性も否定はできないのだが。
宿に入り、すでに二日分の宿泊費を払っているので、シアの忠告通り、今日を含めた三日後までは泊まる場所の心配をする必要は無い。
「レイスには悪いが、やはり広い部屋でベッドの上で寝るのが一番じゃのぉ」
「まぁ…昨日のは本来泊まるための部屋じゃなかったからな」
レイスが用意した部屋は、いわゆる客間ではあったが、工房の一部を改装したような場所という事で、二人泊まれないことは無いが、狭い事は確かだった。
布団も直接床に引くという、十六夜ではそういう形式だと聞いた事はあったが、二人にとってはなれない状態には変わり無かった。
なお―男女で同じ部屋というのにこれほど危機感も何もないのも面白くないわね―などとレイスが言っていたのは、この二人には当然の如く知らされていない。



「……なぁエミィ、そういえば、まだちゃんと返事してなかったよな」
エミリアがベッドの上でふかふかと布団の感触を堪能していると、突然ディンが神妙な表情を浮かべ、そんなセリフを口にしていた。
一瞬エミリアの中に、昼間の酒場でも感じた”何事だ”という気分がよみがえり、その声につられるようにして、ディンの顔に視線を向ける。
「……返事じゃと?」
そして、同じように少し表情を真剣なものに変え、確認するように、そう声に出す
「ああ。 お前が俺にした『約束』の、返事だ」
とん、と自分の頬に向けて指を差し、”エミリアが自分にした事”を確認させる。
……した側もされた側も、とてもではないが数日で忘れる事などできないこと。
エミリアは、また少し顔を赤らめて、わずかにディンの目から視線を逸らした。
「……俺は、お前を守れればそれでいい、それが俺の役目だから……そう思っていた」
しかし、それに構うことなく話を続けるディン。
その様子に少し拍子抜けでもしたのか、エミリアは一瞬きょとんとするも、再びディンの目を見つめ、話を聞く体勢に入っていた。
「でも、お前の口から、お前が思っていた事を聞いて、それだけじゃだめなんだって気がついた
―ずっと前から、小さい頃から分かってたはずだった。 俺がお前を守りたいと思うみたいに、お前も俺を守りたいと思ってくれてることは……」
「……」
「……だから、俺は覚悟を決める。 何が何でもお前を守って……そして、俺もお前と一緒に生き残る覚悟を」
「……ディン……」
「……正直言うと、突っ込むだけの戦い方を直すのはすぐにはムリかもしれない。
けど、お前のためにも、俺自身のためにも、絶対にお前との約束は守ってみせる。 だから……」
「……わかっておる、私も、全力で支えよう。 ……それが」
「ああ……それが」


『それが、二人の旅の始まりだから』


―互いを支え、守り、どこまでも共に行こう。
それは、二人が支援士として旅に出たその日に交わした約束。
今再び、二人はその手を握り合い、始まりの言葉を口にした。
「―それと、俺からも『約束』だ」
「……え?」
すっとその手から自分の手を離し、そのままキョトンとしているエミリアの唇に、自分のそれを重ねる。
それはほんの一瞬の……それこそ1秒にも満たない触れ合いだった。
「―え……え…………?」
何が起こったのか分からないという顔のエミリア。
すでに自分のベッドの上に座り、寝こそしないものの、微妙に彼女から視線を逸らすディン。









「えええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!????」
―――――彼女が『何があったのか』を認識したのは、それから数分後の事だった






―『Holiday of White Noise』 Fin―