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WIRED VISION BLOGS(飯田泰之の「ソーシャル・サイエンス・ハック!)番外」(2007/12/07 (金) 11:22:44) の最新版変更点

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**[[第8回 金のことばかり言うんじゃないよ!?>>http://wiredvision.jp/blog/iida/200707/200707090100.html]] ***2007年7月 9日 ***■陰鬱な科学 3回にわたって解説した割引現在価値の利用法ですが、そろそろウンザリしたという方も多いんじゃないでしょうか。そして、少なからぬ人が「なんでもかんでも金に換算すりゃいいってもんでもないだろ」と感じられたかと思います。「お金じゃ買えないものがある[*1]」というおきまりの言葉があたまに浮かんだ人もあるかもしれません。 「お金じゃ買えないもの」は確かにたくさんあります。あれとかそれとか。身近なものとしてはこれとか……。えーと皆さんもすぐに思い浮かぶでしょ。しかし、その一方で「なんでもお金に換算できる」というのもまた正しい主張と思われます。 別に禅問答を始めようというわけではありませんし、かといって只管打坐しようというわけでもありません。論理学の問題です。仮にXはお金では買えないとしましょう、ここで、「そのXをあきらめなければお前に1兆円の自己破産不能な債務を負わせて、一生奴隷にするぞ」と言われたらどうでしょう。多分あきらめるんじゃないでしょうか。お金じゃ買えないものの代表は「健康」かもしれません。しかし、「病気にはならない代わりに一生貧乏でいずれ餓死する」のと「病気にはなるが人並みの生活」を選べと言われたらまぁ後者を選びますよね。このとき人並みの生活費・一生貧乏といったお金の問題と健康は比較可能な形になっています。 「Xを金銭に換算するなんてとんでもない」という言及は、「Xを金銭に換算するととんでもない”額になってしまう”」という意味だと理解できます。 ***■心の中に定規を持とう! なんでもかんでも金銭換算できるとなると、心の中になんらかの換算レートを持っておくことが素早い意思決定の目安になります。 Life Hacks! の基本技法の一つに、標準作業時間という考え方があります。普段ルーチンでこなしている業務について「必要な時間の目安」を計測し、標準作業時間を割り出しましょう。 例えば、私はWIRED VISIONの1回分原稿を書く標準作業時間は3時間です。すると、週間スケジュールを設定する際には本blogの執筆のための時間として(やや余裕を見て)4時間ほど空けておけばよいと言うことになります。また、ある週に原稿執筆が2時間で終わったなら「なんとなく好調」、逆に半日かかってしまったら「不調だ」と自分のコンディションを確認するツールとしても機能します。 標準作業時間の金銭バーションとも言えるのが自分コスト[*2]の計算です。最も単純な自分コストの計算方法が、年収/年間労働時間による「自分時給」の算出です。早速、昨年度の源泉徴収票を引っ張り出して、収入(会社員の場合はコレに社会保険料[*3]を足して下さい)を平均的な週の労働時間×50週で割ってみましょう。週の労働時間は申告分ではなく、サービス残業まで含めた実労働時間で考えてください。 それがあなたの時給です。思ったより高かった人低かった人様々でしょう。ちなみに全く残業をしないで(そんな人がこの世に存在するのかどうか疑問ですが……)年収+社会保険料600万を稼ぐ人の時給は3000円です[*3]。 フリーで働く人の場合、この自分時給は作業の生産効率を計る上で大きな役割を果たします。自分時給3000円のフリーライター氏が取材や事務作業を含めてほぼ一週間……40時間かけて原稿料10万円の記事を書いたとしましょう。この記事に関する時給は2500円です。さらに自身の標準作業時間を勘案することで、(1)この仕事での作業効率が悪かった(もう少し効率的に動かなければ)、(2)原稿料の安い会社にあたった(この会社からの依頼は控えめにした方がいいかな?)のどちらであったのか理解することが出来ます。 また、企業にお勤めの場合でも「残業は実際にペイしているのか?」などと考える際に自分時給の考え方は有効となります。もっとも残業するか否かを自分で決められることは稀ですが……。残業は通常、基本給÷160(月の規定労働時間)×1.25ほどです。試しに自分の時間外手当を計算してみてください。自分時給よりも低いという人が多いと思います。残業代は高いと思っている人も多いかも知れませんが、実は会社にとっては(サービス残業ではないとしても)残業は安価な労働調達手段なのです。 そしてあなたが管理職ならば、部下のそれぞれの時給を把握しておくことをオススメします。自分時給3000円の部下に1時間当たり1000円程度の収入しか生まない仕事をさせていませんか? ************ ※1 お金じゃ買えないけどカードなら買えるという話ではなく、お金でもブラックカードでも買えないものがあるという意味で。 ※2 小山龍介(2006)、『TIME HACKS!』、東洋経済新報社。 ※3 社会保険料は多くの会社で従業員と企業で半分づつ払っています。したがって給与明細に記載されている「社会保険料天引き」と同じ額を会社があなたのために社会保険庁に支払いをしてくれているので、これは巡りめぐって自分が稼いでいるのと同じことです。 ※4 仮に毎週20時間残業をしている(完全に労働基準法違反ですが結構いると思います)としても時給は2000円です。フリーターがいかに厳しい状況かわかるんではないかと思います。 **[[第9回 タダほど高いものはない?>>http://wiredvision.jp/blog/iida/200707/200707170100.html]] ***2007年7月17日 ***■機会費用 先週のエントリでは、あなたの年収を労働時間で割った金額を時間時給と呼びました。この種の自分時給を算出する理由は、作業効率のチェック等の技術的なもののみではありません。もうひとつの……そして経済学的な理由は「機会費用」の存在です。 通常、費用・コストというと金銭的な支出を伴うものばかりに目がいってしまいます。しかし、経済学の考える「費用」はこれよりももう少し広い意味を持っています。これを機会費用の概念といいます。機会費用は「何かを行う際に犠牲にモノ・事・金」とまとめられるでしょう。まぁ、こんな木で鼻を括ったような定義だと腑に落ちない感じが残りますから、ここは具体例で考えていくことにします。 ***■「無料ご招待セミナー」に参加するコスト 無料だって言うんだからコストはゼロ……ではないですよね。本当にコストがゼロならば世界中のすべての人がそのセミナーに参加するはずです[*1]。セミナー自体が無料でも交通費がかかるからでしょうか。それもあるかもしれません。 しかし、もっと重大なことは「そのセミナーに参加すると、“そのセミナーに参加しなければ出来たこと”が出来なくなってしまう」という機会費用の存在です。最も単純なものとしては「そのセミナーに参加しなければ、残業やバイトで3000円くらい稼げたはずだ」という金銭的なものがあげられます。3000円を捨ててセミナーに参加するということは「セミナー参加に3000円支払っている」ことと同じじゃないですか。自分時給を頭の片隅においていくと、この種の「目に見えない費用」の見落としを防ぐ効果があるというわけです。 皆様が今読まれているこのblogも購読にお金はかかりません。その一方で、私の書く文章は……まぁ少なくとも価値はマイナスではないと思います[*2]。にもかかわらず、読者が爆発的に多いワケではないのはなぜでしょう? この答えも機会費用です。私のエントリを読んでいるとあなたの貴重な10分間が失われてしまいます。それによって、10分の自分時給や他のもっと楽しくて役に立つwebコンテンツを読む機会を失ってしまうことになる。だから、僕のエントリを読む人はそう多くはないというわけ。 さて、ここでちょこっとだけ表題の「Social Science Hacks!」してみましょう。30歳以下の若者層では、ネットの利用時間が長いほど収入が低いといわれます。保守良識派の人がとびあがって喜びそうなお話しですね。ネットが人間をダメにするという証拠が出たわけですから。でも、よ?く考えてください。webコンテンツを楽しむための金銭的支出は限りなく0に近い。すると……webコンテンツ利用のコストって何でしょう。このように考えを進めれば、「ネットの利用時間が長いほど収入が低い」という調査は至極当たり前の事に過ぎないことに気づくことでしょう。 ***■実は経済学の生誕の地なのです 経済学者はたいてい機会費用概念を説明するのが大好きです。私は、その理由の一つは機会費用の発見によって現代につながるスタイルの経済学が発足したからではないかと思います。 経済学の誕生というとアダム・スミスか? それとももう少しマニアックにフランソワ・ケネーか? と思われるかも知れません。しかし、アダム・スミスの『諸国民の富』を読む限り、その内容はそれほど現在の経済学のスタートラインになっているとは思われません。むしろ、金銭問題を学問的に取り扱ったはじまりである点で歴史的転機だったと考えたほうが良さそうです。ケネーの『経済表』も同様で、経済学というより経済統計の父と言った方がしっくり来ます。 もったいつけてしまいましたが、私が考える経済学の父はデビット・リカード、そして彼の比較優位説です*3。リカードによって、「数学的な論理の力を借りて整理した議論で経済問題を考える」という現代の経済学につながるパターンがスタートしたと考えています。 比較優位説は、当時の政策立案に影響力があった[*4]重商主義批判、具体的には英国への農産物輸入を阻害する穀物法批判から生まれた学説です。比較優位説の結論は「自由貿易は貿易に参加するすべての国の経済的な豊かさを向上させる(少なくとも悪化する国はない)」というものです。 教科書にはっきり書かれていないことが多いのですが、比較優位説は機会費用概念そのものです。各国は他国よりも低い機会費用で生産できる財(比較優位財)に特化し、比較優位財を輸出して、そうではない比較劣位財を輸入することで一国全体で利用可能な財の量をふやすことが出来ます。 さて、この比較優位説をビジネスシーンに応用してみましょう。これまた古典的な例ですが、世の弁護士は、その人の経理などの事務処理の能力がいかに優れていても、通常は秘書を雇います。雇い入れた秘書よりも自分の方が事務処理が得意なのにもかかわらずです。なぜでしょう。 答えはまたまた機会費用にあります。弁護士が弁護活動の手を止めて、事務処理に時間を割くことには大きな機会費用が存在します。事務処理よりも弁護活動の方が(たいていの場合は)収入も多いでしょうから。したがって、この弁護士氏はその秘書に比べ事務処理の絶対的能力は高い(これを絶対優位といいます)ものの、機会費用を考慮すると秘書に対して事務処理について比較劣位にあるのです。比較劣位にある活動は輸入……この場合はアウトソーシングすべきです。 みなさんの身の回りの作業で、たしかに自分も結構得意(絶対優位)だけど、実は比較劣位だという活動はありませんか? もし思い当たる節があれば、思い切ったアウトソーシングを検討してみてはいかがでしょう。 ************ ※1 そのセミナーにはなんらかの価値があるとします。参加すること自体が苦痛な講演会ってのも結構ありますが、それはひとまずおいておきましょう。なお、「本当にタダなら世界中の全員が参加する。しかし、現実にはそうではない。だから実際にはタダではない」という背理法チックな考え方は非常に経済学的だと、僕は、思います。 ※2 というか思いたいです。誰かそういってやってください。 ※3 アインシュタインが「経済学の結論なんてどれも当たり前で分かりきったことばかりじゃないか」と切り捨たのに対し、サミュエルソンが「比較優位説はそうでもないじゃないか」と返したという伝説がありますが……これってホントの話なんですかね。 ※4 というか、いまでも「貿易黒字は善い!赤字は悪い!貿易赤字になるから自由貿易はよくない」という重商主義は政策に大きな影響を与えています。 **[[第10回 人の心はわからない>>http://wiredvision.jp/blog/iida/200707/200707230100.html]] ***2007年7月23日 ***■確率的に鹿を狩る Hacks! のように簡単化されたtipsを使って仕事や思考を支配しようとする方法論には抵抗感がぬぐえないという人も多いことでしょう。その「抵抗感」の正体は何でしょう。「こんな単純な方法だと対応できない事態があるんじゃないか」というのが第一の理由ではないかと思います。しかし、どんなに複雑な方法でも「対応できないときは対応できない」んじゃないでしょうか。Hacks! のひとつのコツは上手な「あきらめ」だと思います。 上手な「あきらめ方」の法則なんてあるんでしょうか。僕はあると思っています。日常の生活から仕事に至るまで、多くの予想や意思決定において「100%ぴったり当たる必要はないが、ほどほど正解に近い方がよい」「大幅に外すせば外すほど非常に不味い[*1]」というのはよくあるケースでしょう。この場合、最も安全なのは「平均的に当たる」ように予想することです。 計量経済学者をダシにした古典的ジョークにこんなものがあります。 ある計量経済学者と狩りに出かけたら、手頃な鹿に出くわした。計量経済学者氏のライフルは1回目には右に1mほどはずれた。再度、ライフルを撃ったが今度は左に1mはずしてしまい、鹿は逃げ去ってしまった。しかし、計量経済学者氏は「私たちは確率的に鹿をとらえたよ」と満足げだった。 という話です。たいして面白くないジョークですが、計量経済学者氏は確かに平均的には鹿に命中しているのです。 ***■とりあえずマクロで ビジネスシーンで必要になる予想の一つが「クライアントの気持ち」や「ライバルの行動」の予想です。みなさんも相手の仕草や目線、言葉の端々からなんとか相手の心を読んでやろうと努力されていることでしょう。しかし、現代のビジネスは古典的な対人取引から顔の見えない相手への営業活動へと変わってきました。会話も仕草もなしに……つまりはノー・ヒントでクライアントやライバルの心を知るにはどうしたらよいでしょう。 ここで重要になるのが「あきらめ」です。どうせ、そんなことわかったもんじゃありません[*2]。そんなときの次善の策は何か。出来る限り大外しを避けて通ること。もうすこしめんどくさく言うと「はずれの期待値を最小化すること」です。 Xさんは30歳の日本人男性であるということを知っているだけで、会ったことも話したことも、他の人からの伝聞情報も無いとします。このとき、Xさんの身長を予想しなければならないとしたら……大外しを避ける最も賢い方法はなんでしょう。そうです。とりあえずは30歳の日本人男性の平均身長であると予想しておけばよいでしょう。実際のXさんの身長がぴったり平均身長だなんてことはないでしょう[*3]。おそらくはもっと背が高かったり低かったりすることでしょう。全体での平均値に比べ、実際の値が「高かったり低かったり」するからこそ全体の平均値は予想値として安全(大外ししない)というわけです。 ***■ひっくるめて残るコト 身長を予想するなんていかにも教科書みたいな事例はさておき、ビジネスシーンで予想したい「人間の気持ち」「人間の行動」を考えてみましょう。 人間はインセンティブに基づいて行動します[*4]。ある行動を行うか否かは、その行動を行うべき理由と行わないべき理由を比較して決定されています。行動に限らずある意見を持つか否か、ある気持ちになるか否かについても同様です。これを損得勘定とかメリットとデメリットと言ってしまうとなんだか金銭問題のみのように感じてしまいますが、「行うべき理由と行わないべき理由」は金銭的なモノには限定されません。これは完全に主観的な問題です。 世の中にはいろんな人がいます。自然に囲まれた田舎でのんびり暮らしたいという人もいれば、都心部じゃないと生きていけないぞという人もいます。そして社会の理想像についても、みんなで平等に楽しく暮らしたいという人から、むしろ他の人より自分が上なことがなによりの快感だという人まで様々です。 こんななかで、「平均的な人のインセンティブ」を考えるとき……残るモノは何でしょう。都会がいいとか田舎がいいとか、平等がいいか自分だけ豊かなのがいいとか。そういった人によってそれぞれな「好み」の部分は平均をとると打ち消しあってしまいます。その一方で、平均をとっても消滅しないインセンティブの元は、「損より得の方がいい」「(他の条件が一定ならば)貧乏より金持ちの方がよい」というポイントでしょう。 特に事前情報がないとき、相手の行動原理の予想として最も安全なのは「この人は”金銭的に損よりも得な方がいい”と思っている」と考えておくことです。僕が「金のことばっかりいう」のは、僕が守銭奴だからではありません。不特定多数の人に話すに際して、大きく外さないで話題を選ぶとどうしても金の話に傾かざるを得ないのです。 だれかの行動や感情を予想するとき。まずは「この人は”金銭的に損よりも得な方がいい”と思っている」と予想し、その後に追加情報を得るにつれて予想の絞り込みを行う。そうすることで第一印象や経験則だよりではない読みが可能になるでしょう。 ************ ※1 正確には、外れのダメージが「外し方」の自乗に比例するような場合を指します。 ※2 「そんなことはない」という方は、ぜひその方法を教えていただければと思います。ノー・ヒントで人の心を読む方法があるのなら本当に嬉しいです。 ※3 ちなみに、平成7年の20歳平均身長が171。1cmとのことなので、現在の30歳の平均身長もこんなとこでしょう。マニアな人のために……Xさんの身長が171。1cmなんてことは「めったにない」どころではなく確率0でしかあり得ませんよね。 ※4 もう少し詳しく言うと、人間行動の基礎を「インセンティブ」と呼んでいるという話なのでこの表現は正確ではありません。 ----
気鋭の若手経済学者が、社会問題・経済問題を、Hacks的な手法を用いて、その解決策を探る。 -(2007年7月30日) [[番外/僕のLife Hacks!【スケジュール管理編】>>http://wiredvision.jp/blog/iida/200707/200707300100.html]] -(2007年8月25日) [[番外/貯金はないし、太ってるし、喫煙者だし>>http://wiredvision.jp/blog/iida/200708/200708250100.html]] **[[番外/僕のLife Hacks!【スケジュール管理編】>>http://wiredvision.jp/blog/iida/200707/200707300100.html]] ***2007年7月30日 私の本を読んだことがある方にはおなじみかも知れませんが、僕の書いたものの特徴(というかクセ)は「積み上げ方式」になっていることです。教科書じゃない読み物もなんとなく「理論編→練習編→応用編」みたいな構成にしてます。このblogもなんとなくこれまで本の草稿みたいな感覚で書いてしまいがちで……どうもつづきものが多くなりがち。しかし、せっかくblogという媒体を使っているんだから、たまには脱線してみます。  というわけで、せっかくのHacks系連載なんですから僕が使っているLife Hacks!を紹介してみたいと思います。 ***■情報の一元化 僕が昔から実行しているHacks! 的な手法が「自分の情報源は1つか2つ!」という原則です。僕の場合、大学ノートとシステム手帳。スケジュール系を手帳に書く以外はすべて大学ノート、それも無地のノートに書き殴っていきます。個人的なこと、コラムやblogのアイデア、大学での講義ノート、専門論文の読書メモや計算……なんでもかんでも大学ノートに書きます[*1]。  話題が変わっても、分類はせずに次のページに移るだけ。花見の買い出しリストと今日読んだ計量経済学の論文の式展開とかが隣同士のページになっても気にしない。野口悠紀夫氏も指摘していますが、「いつ頃メモったか」という時系列の記憶は意外とわすれないものです。どうしても気になるなら付箋でもつけておけばよい。  こうしておけば、気になることは手帳かノートどちらかには入っている。これってかなり安心ですよ。 ***■GTDもどき GTD (Getting Things Done)はデヴィッド・アレン氏による知識労働者向けの計画、アイデアの整理方法です[*2]。なかなかの優れものなのですが、結構な手間と時間が必要なのが難点。そこで、僕はGTDをかなり単純にした形で実行しています。スケジュール管理だけにとどまらない意味ある方法だと思いますので、ここで紹介しておきましょう。 1。収集  A4の紙に自分の頭の中にある「気になってること」を書けるだけ書き出します。仕事のことも、プライベートも、社会問題も……とにかくただ書き出します。文章ではなく箇条書きにすること、思考過程ではなく気になっていることのタイトル(?)だけ書けばよい。この作業には最低3時間はかけたいところです。これをやるだけでかなり気持ちがすっきりします。 デヴィッド・アレン氏自体の表現を借りると、「頭脳はハードディスク(記憶媒体)として使ってはいけない」「頭脳はCPU(思考装置)として使え」ということです。自分の頭の代わりになる記憶媒体はありますが、僕の頭の代わりに考えてくれる装置は存在しないんですから。  この「書き出し」は(字の大きさにもよりますが)、A4で10枚くらいになると思います。あぁ、こんなにいろいろあるなぁと思う半面、意外と少ないじゃんとも感じられます。ミソはこの紙を見れば自分の頭の中の気になることが全部書いてあるという安心感です。これはどこかにとっておく必要があります。ちなみに僕は前述の「なんでもノート」に貼り付けています[*3]。で、もう紙に書いちゃったんですから頭の中からは掃き出してしまってよいのです。で、たまに見直せばよいというわけ。 2。処理  このようにリストアップしたもののうち、2分以内で出来ることはその場でやります。そして、「やらなきゃならない」こと。特に一ヶ月以内にやらなきゃならないことベスト10を手帳の月間スケジュールに書き写します。 オリジナルのGTDはこれを分類し、定期的なレビューをする……のですが僕はずぼらな性格なのでそこまではできません。すぐ出来ることをやって、重要な「To Do」を10コ決めたらあとはほっぽらかしています。 3。もう一度  以上のプロセスを月に一度実行するとかなり、ストレスが軽減されます。GTDの実行で挫折してしまった人も、この程度なら続けられるんではないでしょうか。なお、GTD自体を実行したことがないという人は、はじめはオリジナルのGTDを試してみる方がよいと思います。その後に、「自分のオリジナルGTD」を作ると良いでしょう。 ***■ホワイトボード 僕はものすごく忘れっぽい、そしてスケジュールの読みが甘いので、さらに念押しの工夫をしています。それがホワイトボードの利用です。職場に月間スケジュール用のカレンダー付ホワイトボードがあるという人が多いと思います。あれを自宅、またはオフィスの机の前にもおきましょう。大手の文房具店ではポスター大のものが3000円程度で売られています。そして、帰宅時(オフィスならば出社時)に手帳に書かれている予定をそのホワイトボードに写すのです。 備忘録としての役割もありますが、目の前にスケジュールがデーンと居座っていると「仕事しなきゃ」という気分が高まるという精神的な効果も期待できます。 以上。今回は本編を離れて僕のスケジュール・ハックのお話しをしました。これからも月に一度くらいは息抜きの回を作っていこうと思います。なんか取り上げて欲しい単発ネタ、人生相談?などありましたらお知らせ下さい。 ************ ※1 先日父の遺品を整理していたら、父も同じ方法を実行していたことがわかりました(学問とは無縁の人だったので多少形式は違いますが)。父はもっと徹底していて、仕事のこと、日記、住所・電話番号、スケッチ、釣り……全部が1冊! ※2 Allen、 David (2001)、 Getting Things Done: The Art of Stress-Free Productivity、 Viking Press。(『仕事を成し遂げる技術?ストレスなく生産性を発揮する方法』、森平慶司訳、2001年、はまの出版) ※3 ホントに個人的なことまで書いてあるので人に見られるとすごく恥ずかしいです。できるだけ他の人に見られない(けど自分にとってはすぐに見られる)ところに保管しておきたいところ……どこかいい隠し場所ないですかね。 **[[番外/貯金はないし、太ってるし、喫煙者だし>>http://wiredvision.jp/blog/iida/200708/200708250100.html]] ***2007年8月25日 ちょうどそろそろ行動経済学にも言及しなければと思っていたので、大阪大学主催の第4回行動経済学カンファレンスに出席してきました。今回のテーマは「ダイエットと経済学」[*1]です。 そのなかで、大阪大学の池田新介教授の報告によると貯蓄額と肥満度には負の相関関係があるということです。つまりは、貯蓄額が少ない人は太っていて、やせている人は貯蓄が多い傾向があるというわけ。また、喫煙者貯蓄額が少なく、肥満度も高い傾向があるとも言われます。 さて、前々回から繰り返している「すべての人は、それなりに自分の基準での満足度を追求している」ということですね。貯金もせず、太っていて、タバコを喫う人[*2]……要するにダメ人間の見本みたいな人はどんな「自分なりの基準」に従って行動しているのでしょう。 その答えが、第6回で紹介した割引率です。現在と将来をどのくらいの比重で重視するか。割引因子が大きい人にとっては、1年後の100万円よりも今日のお金が重要です。そういう人があまり貯金をしないというのは当然の帰結でしょう。同様に、割引因子が大きい人は将来の肥満や肺ガンよりも、今日の快楽を重視するわけです。 割引因子が大きい、将来のことを大きく割り引いて評価する人に対して「なんでもっと将来のことをちゃんと考えないんだ!」というのは愚問です。「なんで先のことばかり考えて、現在のことをおろそかにするのだ」と返されるのがオチでしょう。アリとキリギリスの寓話は、なんだかアリが偉くてキリギリスが馬鹿……みたいな教訓を引き出すために使われますが、キリギリス側からみると「せっかくの夏を楽しまないなんて人生を損してるなぁ」という話になるでしょう[*3]。 ************ ※1 ものすごく恥ずかしいことに、黒烏龍茶持参で会場入りしてしまいました。駅の自動販売機にあったからなんとなく買っただけなんですが……これじゃあ、なんかものすごい「ダイエット」に興味ある人みたいじゃないですか! ※2 僕のことですが何か! ※3 そんなことはない!と憤慨されたあなたは、水木しげる「幸福の甘き香り」(『ねずみ男の冒険』所収、ちくま文庫)を読むと良いと思います。 〔出典:[[WIRED VISION BLOGS:飯田泰之の「ソーシャル・サイエンス・ハック!」>>http://wiredvision.jp/blog/iida/]] http://wiredvision.jp/blog/iida/〕 ----

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