雅戌の大冒険 -Adventure of the festival-



雅戌(オス・20代)は現在特別任務遂行中である。
自分から提案したものではあるのだが、買出しに出ているのだ。

  • 焼きソバ
  • クレープ
  • たこやき
  • 焼き鳥

……たこやきは定番としても焼き鳥はちょっと親父くさいな、と失礼なことを考えながら顔色一つ変えず全力で走っていた。
第一目標は、焼きソバ。

出店で食べる焼きソバはうまい。
熱々の鉄板で焼けるソースの匂いは一種の魔力のようだ。お世辞にも高級とは言えない食材を使いながらも何故か惹きつけられてしまう、お祭りの熱狂と相乗してつい財布の紐をゆるめる要因となりうる。
「へい、らっしゃい!お兄さんヤキソバいかがっすか!」
威勢の良い声を聞きつつ軌道修正。ここが狙い目と足の裏でしっかりと地面を掴んで摩擦係数を高める。

その店で手に入れた焼きソバが、これだ。

褐色に染まるその麺とキャベツ。そして小間切れの豚肉の乗ったスタンダードな一品。
既に秋真っ直中であるがどことなく夏を感じさせてくれる。
まさにこれぞ焼きソバ!と言う風格を漂わせていた。

感傷もそこそこに雅戌(玄霧藩国摂政)は迫る人波を見事な足捌きで避けて目的地へ一直線へ向かう。それはまるでレトロなシューティングゲームのようでもあった。
……もっとも敵を迎撃する訳ではないのだが。
第二目標はたこやき。

匂いという点で言えばたこやきもまた、負けていない。ミーアさんが目をつけるのも頷けよう。たぶん、あの店の前を通りかかった時から食べたいと思っていたに違いない。
みんなで歩いていたときに密かにチェックしていた一件のたこやき屋を思い浮かべる。

弾力のあるもちっとした表面にとろりと流れ出てくる生地。そしてメインである蛸は港のちかいここ小笠原では新鮮なものが手にはいるだろう。やはり小笠原なら陸上のものよりも海のものを選ぶべきだと考え、メンバー及び定番から思いついたものを求める余り考慮から外れていたことに苦笑いする。

そんなことを考えながらも正面の走ってくる子供を一歩の外への踏みだしのみで躱し、次の一歩で軌道修正。ついに手に入れたのが、これだ。

その球形をした独特のフォルムはまさに職人芸、たこやき屋の親父が満足げに見ているのもうなずけよう。自らが習得した技を結集した至高の一品。そう、その眼が語っている。
これは妥協しない漢の意地が作り出したまさに価格と味の鬩ぎ合いを制した究極のコストパフォーマンスを誇っていた。


自ら手に入れたその一品に満足感を覚えつつも雅戌(庶務担当)は次の獲物へと狙いを定める。焼き鳥だ。甘いものは最後に。匂いの移る可能性などを考えてもその方がよいと思った。

焼き鳥は様々な酒にあう。だが、酒は今日は御法度だ。黒とは宴会を、その固定観念にとらわれた行動はちょっとした悲喜劇をもたらした。お見合いの時の過ちを繰り返してはならない、心に秘めながらも先を急いだ。

焼き鳥-それはただ焼くだけに見えるかもしれない。
だが炭火で焼き加減を見る作業は求道のようでもある。素材を引き出してこその焼き鳥であろう。単純なだけにそれだけ裾野は広いが、突き詰めればいくらでも突き詰められると言う意味でもある。たれの工夫もその一端にある。もちろん焼きの甘さをたれでカバーすると言った方法もとれてしまう。それは作る側の良心に任されているのである。

雅戌は摂政という立場上、人よりは人を見ている自身はある。この焼鳥屋なら大丈夫だと言い聞かせながら購入を決意した。

最後に購入するのはクレープである。
最近では定番となってはいるがもともとクレープはなじみの薄いものであった。
薄い生地を鉄板に引き延ばし、クレープ地を作る。なるべく均一にした方が綺麗に出来るだろう。そこに好みのもの、一般的には生クリームや果物などを載せて巻く。
もちろんツナなどでスナック風にもすることも出来るといった代物である。

雅戌(クールなようで熱い)はそれを手に入れるため足を止めない。次の発言、行動機会まではそんなに多くの余裕がある訳ではなかった。買い出しに行くとはいったが、交流の機会まで減らすなんてことは望んでいないのだ。

まさに風のようであった。

障壁を何の滞りもなく避け、たどり着くとみんなが上を見上げていた。
雅戌もメガネを押し上げて直したあと、上を見上げる。何もある訳はない。
だが、何か確実に変わり始めているのだけは感じていた。

余談ではあるが食べる段となり焼きソバやたこ焼きが多少偏ってしまっていたのはご愛敬と言うべきかもしれない。