暁の円卓藩国@WIKI

椿とまさきち:田辺さんが来た日

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主要登場人物紹介

  • まさきち:暁の円卓所属の剣。詳しくはこちら

  • 時雨野椿:まさきちの王。しらいし藩王の紹介でいつの間にか彼と組まされていた。詳しくはこちら

  • 遠坂圭吾(青眼):暁の円卓逗留有名人。GPM以後の遠坂らしい。詳しくはこちら

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東国の季節は移ろいやすく、僅かな時でもその様相を変える。
青い瞳の騎士、遠坂圭吾が暁の円卓を訪れてから一週間。
雨の季節は終わりを告げ、虫の鳴く声が夏の訪れを告げ始めていた。


「たらい?」
「うん」
夏の風物詩と言えば怪談である。それは暁の円卓においても例外ではない。
蚊取り線香が煙る床の間で、スイカをほおばったまま風杜神奈とトラナはそんな話をしていた。
曰く。
あるはずのないところで音がして、その後には金だらいだけが残されている。
これがここ数日の暁で流行の、怪談であった。
一見金たらいと言うのは風情がなくてその時点で怪異足り得ないように見えるが、それは逆である。
奇怪な音、いわゆるラップ音がする。その後に「何か」が残されている。
そこまではむしろ問題ではない。
ニューワールドでも指折りのファンタジー(ぶっちゃけありえない)藩国である暁の円卓、その程度の怪異は怪異ですらない。
そもそも年齢3歳の幼女と13歳の少女が華族なのである。それに比べればラップ音など些細な問題であろう。
この話題で焦点となるのは、何故たらいなのか。それがわからないから、恐ろしいのである。
「……不思議だね」
「そうだね」
そう言ってちょっとだけ体を震わせて、二人はまたスイカをかじり始めた。

「ふーん、変な話ね」
「だろ?」
そして、暁でにわかに広まったこの話題は新参の王と剣であるこの二人組……時雨野椿とまさきちの耳にも入っていた。
まあ色々と変な国ではある、と思っていたが怪談の類まで普通ではない。
椿はそのまま中華風の寝台に寝転んで、ぼんやりと思った。
それにしても……椿には身近でもっとよくわからないものがある。
目の前の剣の少年の事である。
この国に来て藩王であるしらいし裕に引き合わされたがこの13歳の少年……まさきちだったが、どうも態度が硬い。
基本的に無愛想で自分に対してあまり話しかけようとしないし、こっちから話しかけても相槌を打つくらいで会話が続かない。
かと思えば、さっきのようになんでもない話題を唐突に振ってきたりもする。
嫌われているとも思えないが、普通に楽しくおしゃべりできるわけでもない。
正直、微妙だった。もっとぶっちゃけると、やりづらい。
内々の情報筋では、本格的なレムーリア進行が近いというのに。
このままの状態できちんと連携が取れるのだろうか……
不安になってくる。たらいの話はまあそれなりに怖いと思うが、正直こっちの方が椿にとっては死活問題だった。
「んー……」
そう考えたところで、椿の頭の中にひとつの考えがひらめいた。
「そうだ。まさきちちゃん!」
「な、何?」
「そのたらいの話、調べに行きましょう」

暗がりの中で、我ながら名案だと自画自賛しながら椿は歩いている。
隣には微妙に仏頂面のまさきち、そして何故か遠坂がいる。
正直、たらいの話はどうでも良いがこうして何かをする機会があればまさきちとも打ち解けられるだろう。
問題を解決できれば来たばかりのこの国にも貢献できる。
遠坂には、一応二人だけだと間が持たない可能性を考慮してついて来てもらった。
本人もなにやら興味が逢ったようで、乗り気だ。
しかし、却ってまさきちの態度が硬くなったような気がするのはどうしてだろう?
「……そろそろ出そうですね」
「…あ、そうですね」
少し上の空気味だった椿の耳を、遠坂の声が叩いた。
集中してみると、暗がりの廊下に何かしらの気配がある。
身を硬くして、一応護身用に持ってきた剣を構える。
まさきちも表情を険しくしている……
そして。

どかん、と言う音が何の前触れもなく暗い廊下に響いた。
「きゃっ……」
怖い。これは怖い。
ふと頼るように、隣のまさきちを見ると険しい表情を崩さない。
「まさきちちゃん……」
「大丈夫か?椿姐ちゃん」
思わず漏れた声に、優しい響きの言葉が返ってきた。
不意に、椿の心が安らぐ。
「う、うん……」
やっぱり嫌われているわけじゃなかった。
怪異が目の前に迫っているにもかかわらず、何かふと暖かいものが心に広がる。
恐る恐る指を伸ばすと、まさきちがその手を握ってくれた。
少年らしい暖かい体温が、椿に伝わる。
「ご、ごめんなさい……」
暗がりから響いた声が響いたが、椿には余り気にならなかった。
代わりに、それに遠坂が何故か反応した。
「その声、田辺さんですか?」
「と、遠坂くん……?」
「?」
まさきちと椿の目が、点になる。
もしかして、遠坂の知り合いなのだろうか?
暗がりから、ゆっくりと人影が姿を現す。
そこには、青い髪をお下げにしたブレーザー姿の眼鏡っ娘がたっていた。

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