※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

第八章




8.
朝、いつもながらやかましい目覚ましに起こされた。
む~ん、いつもながら朝ってだるいねぇ…。台所では母親が、
「今日も元気に朝ゴハ~ン」
などと口ずさんでいる。あんたは元気だね…。
10月も半ばに入り、やっと涼しくなってきた。俺は銀杏の香りに包まれながら
「って、くせぇ!」
相変わらず溜まったもんじゃない。
学校は何事も無く平凡に過ごしている。
いつもと変わらない。
そんなある日の放課後、というよりもう夜だったけど、
岩城が突然キャッチボールをしようと言い出したのは10月のちょっと肌寒くなって来た頃だった。
「なんでまた急にキャッチボールなんか・・・」
誰も居ないグランドでテニスボールを投げながら言った。
「たまにはこういうのもいいでしょー」
「まぁ悪くはないけどさ」
「だったら文句言わないの」
「へいへい・・・」
よくよく考えると中学校で過ごすのもあとちょっとか。なんて事を考えてた。
なんでこんな夜まで学校に居たかと言うと授業が終わった後、美術室で居眠りをしていた。
6時を過ぎた辺りに高島先生に起こされボーッっとしていた所に岩城がやってきていきなり、
「キャッチボールしよ」
と誘われ、今に至っている。
「おっと」
少し暗くてボールが見えにくい。
「もうこの時期になると暗くなるの早いねー」
「そうだなぁ」
ボールを岩城に投げ返す。
「休みとか何してるの?」
ボールを投げながら岩城が言う。
「んー、ゴロゴロしたり吉岡と遊んだりかな」
「ふーん」
「なんだよ急に」
「別にー、気になっただけ」
「そうかい」
「もう暗いしやめよっか」
「ん、分かった」
岩城とは学校の廊下で別れた。何やらまだやることがあるらしい。
学校が楽しいんだろうなと、そんな事を考えながら家へと向かった。
明日は休みだし、家でゆっくりすごそう。

 俺の耳元では目覚まし時計が一生懸命に俺を起こそうとしている。
「・・・じゃかあしゃあー!!」
 俺の右ストレートを食らった目覚ましはピクリとも動かなくなった。
「・・・またやってしまった」
 今学期になって目覚ましを壊したのは3回目だ。スマン、キミは職務を果たしているだけなのに・・・。
「それにしても誰が目覚ましなんかセットしたんだ?」
 俺は止まっている時計をちらりと見た。11時。ちなみに今日は土曜なので学校はない。ゆとり教育万歳だ。
目覚ましをオフにするのを忘れていたようだ。起きるにしては少し早かったが、腹が減った。
「コンビニでもいくかな」
 ゴソゴソと制服のズボンから財布を出す。・・・出ない。と言うか、
「ない!?」
 何故だ!?何処だ!?俺は手当たりしだい部屋の中を探したが見つかったのはいつかなくしたジッポだけだった。・・・ついてない。
なにやら今日はついてない。財布が無いのはかなり痛かったがこれ以上動いても腹が減るだけだしさっさと寝よう。起きててもいいこともなさそうだ。
しばらくして俺は眠りについた。
 眠ってからどれくらい経っただろう。ぼんやりとした目で時計を見るが11時をさしたまま止まっている。ベッドから体を起こすが何かにつまづいてこけた。
「ぐお、・・・なんだ?」
 俺はつまづいたものがある方向へ視線を向けた。
「・・・足!?」
 何故足が!?足の持ち主を確かめてみる。見覚えのある顔。
「桐嶋?」
 俺がそう呼ぶと桐嶋はゆっくりと目蓋を開いた。
「ん・・・?あれ、アキラなにしてんの?」
「それはコッチのセリフだ」
 俺に言われて桐嶋は辺りを確認する。
「ここどこ?」
「俺ん家」
「なんであんたの家にあたしがいるの?」
「知るか!」
 寝ぼけているんだろうか。それとも本気で言っているのだろうか。
「・・・あー」
 ・・・寝ぼけてるっぽい。しばらく放っておこう。とりあえず俺はトイレに向かった。俺がトイレから帰ってくると桐嶋はもう寝ぼけてはいなかった。
「どーやって俺の家に入った訳?」
「鍵開いてた」
 なんて不謹慎な・・・。
「で、玄関見てみるとあんたの靴があったから勝手に上がった」
「そこまでは分かったけどなんで俺ん家きたの?」
「ああ、昨日さ、あんた財布落としたでしょ?」
「昨日かは知らんが落とした」
「教室に落ちてたよ。はいコレ」
 桐嶋が手にしているのは紛れも無く俺の財布だった。
「コレが無かった所為で俺がどれほど空腹を味わったか・・・」
「そんなことだろうと思って買ってきてあげたわよ」
「ほう、気が利くねぇ。で、ドコ?」
「焼きそば作ってあげようと思ったんだけどあんた寝てたから冷蔵庫に入れてあるよ」
 勝手に人の家の冷蔵庫を開けるとは。・・・飲みモンくらいしか入ってないけど。
「エプロンとかある?」
「ああ、台所のイスに掛けてあると思う」
「じゃ、それ借りるね」
「ん、じゃあ頼んだ」
「はいはい」
 桐嶋は俺の手にポンと財布を手渡して台所へ向かっていった。・・・ん?財布が軽い。
 台所では母親のエプロンをつけた桐嶋が野菜を洗っていた。
「なぁ桐嶋?」
「なぁに?」
「その焼きソバ代って・・・」
「ああ、あんたの財布から抜いといたから」
「やっぱし・・・」
「だってあんたが食べるわけだし、なんであたしが出さなきゃいけないのよ」
「ぬおおお・・・」
 けど、それ以上は言い返せなかったので俺は静かにリビングでテレビを見ることにした。ふとテレビの横にある時計をみると、2時を過ぎたところだった。
 しばらくして、ソースのいい匂いがしてきた。
「できたよー」
「お、うまそうだな」
「当たり前でしょ。家庭科5なんだから」
 家庭科の成績を基準にしてるようでは駄目だと思うんですが、桐嶋さん。
 俺はふと、あることに気づいた。
「なぁ、なんで皿が二つあるんだ?」
「あたしのに決まってるじゃない」
 オイ。
「人から食費ふんだくっといてそれは無いだろ・・・」
そのことは水に流す事にしてとりあえず桐嶋作の焼きソバをいただく事にした。
「どう?」
「うん、うまいよ」
「そっか、よかった」
何だかんだ偉そうなことを言いながらも不安だったようだ。
その後は色々話をしながら食事を取っていた。
食事が終わって片付けをしてる最中、桐嶋が
「口に青海苔付いてるよ」
と、俺の口元の青海苔を指で拭いてくれた。
「バカップルみたいだな」
と、俺が言うとしばらく沈黙してから二人して笑い出してしまった。
「サンキュ、今日は助かった」
「いえいえ、それじゃまた学校でね」
「ああ、またな」
なんか桐嶋と二人で話をしたのが久しぶりに思えた。
そんな秋の休日だった。




          第九章へ